猫との暮らし始まりました

19話 ページ21

「ただいまー」

いつものように帰ってくると、秀が寄ってきてくれる

私はリビングに戻りながらちらりと後をついてくる秀を見る


…もしかしたら、本当に


馬鹿げた考えを振り払うように頭を振るが、頭のどこかで確信していた

何の根拠も論理的思考もないが

立ち止まり私は後ろを振り返る


さぁ、君に聞こうじゃないか

君は果たしてどちらなのか

猫なのか


人なのか


急に立ち止まった私を不思議に思ったのだろう

秀は私を見上げた


「ねぇ」


口を開く

どこか空気が重苦しい

湿度のせいだろうか

この重苦しい空気を作っているのが何であるか

私は『ソレ』に気が付かない振りをして問いかける



「秀って本当に猫なの？」



ぴしり、と何かが固まる嫌な音がやけにはっきりと聞こえた

それは聞こえてはならない音

いつの間にか雨が降ってきていて窓を打ち鳴らす

秀は固まった

それはこの質問の意図を理解していることを示していた

思わず顔を歪めそうになる

…あぁ、やっぱり


雨が降ります 雨が降る


それはいつか聞いた詩

聞こえもしないはずなのに雨の音に紛れて聞こえてくるような気がした



「だって君、人間みたい。それに黒猫に君みたいな瞳の子っていないんだよ」


コナン好きの友達の記憶の改変

それに伴う『名探偵コナン』の作品の消失

そして、私だけが記憶を保持しているという不可思議な現象

目の前の黒猫の異常なまでの知能

現実離れしたことが立て続けに起これば、人間が猫になるなんてことも、漫画の中のキャラクターがこの世界に来てしまうことも、不思議ではないような気がした

思い返せば、心のどこかでいつも疑問に思っていた気がする


─もしかしたら秀が人間なんじゃないかと


昼もふるふる夜もふる


私は問いかける

いつかのようにしゃがんで

いつかのように目を合わせながら



雨が降ります 雨が降る



「君は赤井秀一なの?」




答えが返ってこないことを心のどこかで期待し(願い)ながら問いかけた









・









「なぁん」


淡い希望を打ち砕くかのように目の前の黒猫は鳴いた

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