光芒 II (ページ9)

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「……親は？」
「お父さんもお母さんも、海人のやりたいことしたら良いって言ってくれたよ」
「嘘だ……」
「ほんと」

海人は、俺を通り過ぎて座椅子に腰掛けた。テレビもソファもない静かな空間に、ミシッと椅子が軋む音だけが響く。真面目な表情は、心なしかいつもより大人びて見えた。

「ほっくん、何か誤解してるよ」

誤解……いつかも聞いた言葉に、心臓が痛くなった。暗い夜、Aさんの泣きそうな顔、コンクリートを擦る足音。全部、忘れてしまいたい、ついこの間のこと。

「お母さんとお父さんと、いつから話してない？」
「もう、覚えてない」
「でしょ？」

話すってなんだ、と思う。幼い頃から、表情から、場の空気から、相手の感情を汲み取ることにばかり気を遣っていた気がする。そのおかげか、そのせいか、人の顔を見れば何を考えているか分かるようになった。

「ほっくんのそれ、間違ってるよ」
「え？」
「生きてたら、話してみなきゃ分かんないことばっかりだよ。今のほっくんは、分かったフリしてるだけ」

海人の言葉が、心の触れずにいたところに鋭く突き刺さった。分かったフリ、悟ったフリ、そうしなければ、精神を保てなかったのだ。今だって、保てないのだ。

多分この言葉が、一番俺に言いたかったことなのだろう。海人の瞳や顔や身体に、力が入っているように見えるから。

「それで、勝手に絶望してるだけ」

俺の絶望は、杞憂だと言いたいのか。俺が辿り着いた今この状況は【誤解】であり、本物ではないと。