Cheers【2】 (ページ10)

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『ごめんA、花火大会行けなくなっちゃった』

10分前に電車内でジェシーくんからのこの連絡に目を通してから、どうやって家まで帰ってきたか、覚えていない。あと3日で花火大会。そう自分を鼓舞しながら乗り切ってきた仕事が、全て無駄になったような気がして溜め息が出た。

「A？」
「ん？ごめんなんだっけ」
「いや、いただきますって言ってから一向に箸持たないから」
「あぁ、」

指摘されてやっと、目の前の景色に焦点が合った。そうだ。帰宅してから、北斗はそうめんを茹でてくれた。今日も家に2人だから、2人分の夕食が並んでいた。

「どうした？」
「いや、なんでもない」
「さっきからうわの空だろ」
「そうかな。あ、いただきます」

今度こそお箸を持って、麺を啜る。正直あまり食欲はなかったけれど、そうめんだからかスルスルっと食べられた。

「ジェシーのこと？」
「うん。…ん？ううん」
「ハハ、わかりやすっ」
「笑い事じゃないんだけど」
「どうせあれだ。花火大会行けなくなったとかだ」
「なんで分かるの」
「この間やけに嬉しそうに言ってたから。『ジェシーくんと行くんだー』って」

そんなこと言ったっけ。記憶を遡っても、思い当たる節はなかった。北斗が来てからはや5日。皆んなで物置き部屋を片付けた初日のことが、もはや遠い昔のように思える。

ジェシーくんと休日のお昼に手を繋いでスーパーに行った日なんて、もっともっと遠い昔のようだ。行きたかったな、花火大会。ジェシーくんの夢を全力で応援すると言ったのは私なのに、こうして利己的な感情が湧いてくる自分が嫌だった。