Cheers【2】 (ページ8)

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「北斗が煽ったから負けた！反則！」
「煽りは戦略の内だから」

思い切り睨めば、鼻を鳴らして得意げに腕を組む北斗。

「子供っぽ」
「は？」
「煽りは戦略、だから」

煽り返せば、チッと舌打ちをされて、北斗の手によってまた札が交互に配られる。

私たちは今、リビングのローテーブルに向かい合って、トランプをしている。

平日の23時、リビングで1人、ジェシーくんの帰宅を待っていたところに、北斗が「スピードしようぜ」と呑気にやってきたのだ。

「帰ってくるまで起きてんの？」

北斗は机上に札を並べながらそう言った。帰ってくるまで、とはジェシーくんが帰ってくるまで、ということだ。

「うん。会いたいから」

馬鹿正直にそう答える。ジェシーくんは掛け持ちを始めた上に、今月末に若手の料理コンクールに出るらしく、朝から晩まで練習をしているのだそうだ。ゆるゆるとではあるが、なんとか続いているチャット上でそう教えてくれた。ジェシーくんの邪魔をしたくないけれど、顔を合わせるくらいはしたかったのだ。だって、最後にきちんと顔を合わせたのはいつだろうか。

側から見ればほんの2日3日の話だけれど、私にとっては途方もない時間だ。この家に来てから、毎日顔を合わせていたんだから。思い返しては感傷に浸ってしまうから、北斗からのゲームの誘いは正直有り難かった。

「そう。次勝ったら俺はもう寝るわ」
「一生寝れないかもね」
「よく言うよ。物理的に攻撃してきた時以外勝ててないじゃん」
「相手のトランプ奪うのは禁止なの？」
「当たり前でしょ」
「なら煽りも禁止ね？」
「わかったよ」

「せーの」の掛け声で勝負が始まり、激闘が繰り広げられたけれど、結局、数枚差で負けてしまった。北斗は眠そうな目をこすりながら宣言通り自室に戻っていって、またリビングに1人になった。なんだか手持ち無沙汰で、高校時代流行りに乗って習得したトランプマジックをやってみたりした、1人で。美しく決まった後、誰に見せるわけでもないのに、と我に帰って溜め息をつく。時計を確認すればもうすぐ日が変わろうとしていた。