Cheers【2】 (ページ28)

今日:70 hit、昨日:33 hit、合計:64,194 hit

. ページ28

.

「ありがとう。助かった」

最後のダンボールを運び込んで一息ついている北斗に、冷たい麦茶を差し出す。コンビニで買った500ミリのペットボトル。

「いいえ。Aのためなら何でもしますよ」
「わざとらし」

私は無事満足のいく新居に出会い、遂に何ヶ月ぶりかの一人暮らしに戻るのだった。何かを失ってしまっても、時は無常に過ぎ去るものだと、まだ違和感のある部屋の香りが鼻を通った後に思う。

昨日はマリさんにご馳走を振舞ってもらって、「いつでも遊びに来てね」という言葉に深く頷いて、名残惜しかったけれど、思い出の詰まったあの家を出た。

「はぁー、あっちー。もう９月半ばだってのに」
「ね」

相変わらず汗は目視できないけれど、クーラーの風に当たりながら目を瞑る北斗。荷物は業者に頼むほど多くなかったから、北斗の車と北斗の手を借りたのだった。まだフローリングにダンボールが置いてあるだけの部屋だけれど、マリさんが「ソファ持って行っていいよ」と言ってくれたから、3人がけのオシャレなソファだけ有り難く頂いて、さっきリビングに置いた。

ただ、座る度に、あの家を、あの部屋を、ジェシーくんのことを思い出すから、ソファを持ってきてしまったのは失敗、だったのかもしれない。

「大丈夫？」
「ん？」
「バテた？」
「ううん。大丈夫」
「そ。Aもお茶飲みなよ」
「あ、ありがと」

北斗から飲みかけのお茶を渡されて、有難く口をつける。北斗はそのまま隣に座ってくるから、私の右側が深く沈んだ。