Cheers【2】 (ページ25)

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「え？出て行った？」

それからすぐだった。
ジェシーくんに会えなくなった。

「うん。ジェシー、アメリカに帰ったよ」

マリさんは、さらりとそう言って読みかけの雑誌のページを捲る。数日前からジェシーくんと会うことが全くなくなったから、「ジェシーくん、今忙しいんですか？」とマリさんに聞いたのだ。

帰った？アメリカ？いつ？なんで？とめどなく疑問符が溢れてきたけれど、いざ口から出たのは小さな溜め息のようなものだった。

「何も言われてなかったの？」
「…はい。なにも、聞いてないです」

真剣な顔をしたマリさんに、おいでと手招きをされて、テーブルを隔てて向かい側に座った。

「ジェシー、Aちゃんに大切なこと話してなかったのね…」

「それは、私がジェシーくんにとって」

大切ではなかったから？

「大切だったから、言い出しにくかったんだろうね」
「…そうでしょうか」

あれほど淡く甘かったはずの夏の日は、思い出そうとすると遠くボヤけてしまう。

ジェシーくんは、私を照らす太陽のような存在でありながら、自分の影の部分については打ち開けない人だったな、と今になって思う。それは、他の人に、たとえマリさんになんと言われても、私を暗い場所へ引き摺るには十分な事実だった。