Cheers (ページ7)

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「ん？」
「今日は俺んちに泊まればいいよ」

東京の夜の街でよく飛び交うであろう言葉が、文意よりもポップなものに聞こえるのは、ジェシーくんの口調のせいか。

「えっそれは、」
「正確にいうと俺んちじゃないんだけどね」

俺んち来なよと言いながら、正確には俺んちじゃない、とは、それは、…..つまりどういうことだろう。

「ごめん。説明するね」

詳しく話を聞けば、ジェシーくんは、知人の家で下宿しているらしく、その知人、改め家主の方に、今日私が泊まっても良いかということを聞いてくれていたみたいだ。

「ちょうど一部屋空いててね。好きに使っていいよって言ってくれたから」
「本当に、良いの」
「もちろん！それに、こんな時に1人で過ごすのは心細いだろうし」
「……ありがとう」
「じゃああれだね。コンビニ寄ろっか。メイク落とすやつとか買うでしょ？」
「あ、うん」

「帰ろ〜」と歩き出すジェシーくんの斜め後ろから着いていく。不安とは別の感情が不意打ちで胸に来て、ドキドキした。少し電車に揺られて降りたのは、大きな戸建が立ち並ぶ高級住宅街として名高い駅だった。近くに高層マンションもなければ、ネオンも光らない、落ち着いた街だ。慣れた様子で改札を抜けるジェシーくんの後に続いてSuicaをかざした。

「大丈夫？」
「あ、うん」
「でも大丈夫なわけないよね。突然家無くなっちゃうって、俺考えたこともないもん」
「私もだよ」
「だよねー」
「でも、引っ越したいとは思ってたし、良い機会だと思っておこうかな」
「ポジティブ！いいね。命があればそれでいーよ」

ジェシーくんの明るい声を聞くと、不安とか、心の揺らぎが鎮まる。ここ数時間で有り得ないことが幾つも起こって、感覚がおかしくなってしまっているのか。それでもすごい。魔法みたいだと思った。