Cheers (ページ5)

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「ちょっと、ごめん。出てくる」
「うん。待ってる」

ジェシーくんに背を向けて、応答ボタンを押す。聞こえたのは、いつも穏やかな大家さんの声からは想像もつかないほど、焦燥と疲労を感じる声だった。熱帯夜なのに、緊張で指先が冷えていく。

「もしもし…」
「Aさん、ごめんなさい。今どこに居ますか？」
「今、恵比寿で、これから帰ろうかと」
「そうですか。あの、あのですね、単刀直入に言うと、Aさんの部屋が火事に巻き込まれました」
「………か、…え？」

火事なんてニュースでしか聞いたことない単語が飛び出して思考が停止する。巻き込まれた。ということは、私の部屋が、燃えた？ということ？

「えっ、大丈夫！？」

ふらついた身体を、後ろからジェシーくんが支えてくれて何とか立ち直す。

状況が掴めないながらも、大家さんの話を聞くと、今日の午後8時頃、約2時間前だ。302号室の部屋が火事になり、両隣の部屋も半焼してしまったらしい。つまり私が住む303号室の半分が、火事の被害にあったということだ。

幸い家主の男性も近隣住民もすぐに逃げられたらしく、怪我人はいないようだ。それは良かった。良かった？……良くない！全然良くない！私の帰れる家が、今さっきなくなってしまったというのか。

「今はもう火は収まってて、消防の人も近隣住民も帰ってます。家主の方と僕はこれから警察と話したりなんなりありますので、今日は帰宅なさらない方がいいかと思います」
「……わ、かりました」
「家主の方が今日の分の宿泊費出すって言ってるので、今日はどこかに泊まってもらって…明日来てくれますか？確認に」
「はぁ、あ、はい。わかりました」

分かりたくはないけれど、取り敢えず了承する。今日また一つ歳を重ねた、立派な社会人だから。

「…じゃあ失礼します」半分消えかけたなけなしの声で電話を切れば、心配そうな顔をしたジェシーくんが目の前に立っていた。それどころではなくて、全く気がつかなかった。

「どうしたの？顔色悪い」
「あの…」
「うん」
「……家が」
「家が？」
「家が、燃えました」
「うん。

………え？」

私だって、未だに頭の中はハテナでいっぱいだ。特大のハテナが脳内を駆け巡っている。とても素敵な誕生日になったと思っていた矢先、最後の最後に災難が降ってくるなんて、考えてもいなかった。人生はやっぱり、油断してはいけない。