Cheers (ページ38)

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「楽しみだなぁ」

花火大会なんていつぶりだろうか。地元にいた頃には海辺に上がる花火をよく見に行った。納涼花火大会と銘打たれたものだったけど、都会からも人が訪れるほど有名な催しだったから、涼しくなるどころか逆に暑苦しかった印象があるけれど、花火は盛大で美しかった。遠い夏の記憶だ。

「A？」
「あーごめん」
「どうしたの」
「思い出してた。学生の時の、淡い記憶？」
「なにそれ気になる」

2人並んだソファの上、ジェシーくんがゼロ距離の位置まで近づく。依然として手は繋がれたまま。これから友人の家に行くという森本を見送って、どれほど経っただろうか。部屋にはオレンジの夕日が差し込んでいる。

「大したことじゃないよ？」
「それでも知りたい。Aのこと」
「高校生の時に好きだった人と、一緒に花火大会行ったなーって」
「その恋は実ったの？」
「ううん。結局告白できなかったし、彼の方に彼女が出来てその恋は終わった」
「そっか」
「うん」
「なんか、良かった。その時Aが告白出来なくて」
「なにそれ」
「そうじゃなきゃ、今ここにいない気がする」

ジェシーくんが寂しそうな顔をしたと思えば、短いキスをされる。好きだ。その一言が今も言えない私に静かに虚しくなったけれど、笑顔で「そうだね」と返した。