. ページ47
.
Side Hokuto
“俺なんて”
そう俺自身を苦しめる悪魔は、Aさんと会えない日に限って牙を剥く。何度も、何度も。
「松村、女といちゃつく為に休学したの？」
「……は」
「この間見ちゃったんだー、俺」
差し出されたスマホの画面には、俺とAさんがバス停でキスをする写真が映る。俺にそれを見せつけて、ニヤニヤと気持ち悪い笑みを浮かべるこいつは、大学内で何回か目にしたことがあったかもしれない。
「突然見かけなくなったと思ったら、こんなとこに居たんだね。立派なお父さんに、この写真送りつけてあげようか？(笑)」
俺が無視をしても、レジ前でこいつはでかい声で話し続ける。よりによって今もう1人の店員はゴミ出しをしていて外だから、裏に逃げる訳にもいかない。空調が効いた快適な室温の店内なのに、嫌な汗がこめかみを伝う。こんなガキくさい煽りを正面から受け止めなくていいって、分かっている。分かってるのに、身体が動揺を隠せない。こういう自分が、心底嫌いだ。
「聞いてる？松村」
「…何がしたいの、お前」
それにしても、こいつの意図が読めない。ただ俺を傷つけに来ただけなのか。なんなんだろうか。汗は止まらないし、呼吸だって荒くなってる。そんな自分を隠すように、そいつのことを思い切り睨んだ。
「教授が揃いも揃って君に贔屓してるのが、ずっと気に入らなかった」
「は？」
「君みたいな恵まれた環境で育った坊ちゃんに負け続けるのって、俺みたいな平凡な環境で泥臭く頑張ってきた人にとって結構屈辱なんだよ？だから、いつか同じような屈辱を味合わせてやりたいと思ってた」
「……なんだよそれ」
恵まれた環境にいたことは否定できないけれど、俺は俺なりに努力してここまできた。俺には、俺の地獄があった。でも分かってる。よくあった、俺の環境を羨ましがって勝手に僻まれること。
だけどこんなのは初めてだった。俺の目をしっかり見据えて、殺してやる、という目をしていた。瀕死状態のシマウマにとどめを刺すライオン。躊躇なく肉を割き、骨をしゃぶり、腹を満たすような、獰猛な肉食動物の目。強がっていた俺の武装も効力を無くして、ただ足が震えた。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 1003人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
akikuma(プロフ) - 切ないですね…大好き"だった"、好き"だった"人、過去形なのがなんとも切なすぎます😭みんな幸せになれー！って心の中で叫んじゃいました！ (9月27日 7時) (
レス) @page45 id: 5677edd0e4 (このIDを非表示/違反報告)
Ne子(プロフ) - akikumaさん» はじめまして！わーいありがとうございます😭 (9月26日 23時) (レス) id: c4997b2b87 (このIDを非表示/違反報告)
akikuma(プロフ) - はじめまして！大好きなお話です！！また更新されて嬉しいです🥰続き楽しみにしてます！ (9月26日 17時) (レス) @page42 id: 5677edd0e4 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：Ne子 | 作成日時：2023年3月30日 0時
