. ページ18
.
なんだか、北斗くんに会いたくなった。あの日別れ際に連絡先を交換してから、特に次の約束をした訳でもないし、彼と会って何かしようという訳でもないけれど、会いたいとただ思った。
でも、私はまだ彼の名前しか知らない、ということも思い出した。彼が何歳で、何をしてて、何が好きか、とか全然知らないのだ。
買い物も兼ねて北斗くんの働くコンビニに来てみたけれど、今日シフトは入ってないみたいだ。少し肩を落として、自動ドアを抜ける。
「わっ！」
「痛っ」
瞬間、肩に強い衝撃があり、私はコンクリートに尻もちをついた。20代後半にもなって、こんな盛大に転ぶことなんてそうそう無い。
「ごめんなさい」
「こちらこそごめんなさい。お姉さん、大丈夫？」
ぶつかった相手は、高校生の男の子だった。綺麗に整えられた制服を着た男の子は、ひょいと立ち上がって、私の手を取ってくれた。咄嗟に地面についた手のひらが少し痛む。
コンクリートに目線を落とせば、彼の荷物が散乱していた。中身の詰まったタッパーが、いくつか転がっている。
「私は、全然大丈夫。だけど荷物が」
「あー、大丈夫。へへ」
男の子は何事もない様子で笑う。へにゃんという効果音が似合うようような、柔らかい笑顔。眩しいくらい、若い。ぶつかった衝撃で落としてしまった彼のタッパーを一つ拾って、手渡す。中身は美味しそうな、肉じゃが、のように見える。
「これ」
「ありがとう」
これから食べるのだろうか。幸い、蓋は開かなかったけれど、大切な料理を落としてしまったことは、すごく申し訳ない。
「これね、お母さんが作ってくれて、今から兄ちゃんの家に届けに行くの」
「ごめんね。せっかくの料理を」
「ううん。大丈夫。それよりお姉さんの方が心配だよ」
高校生の男の子は、少し擦りむいた私の手のひらを心配してくれている。
「私も大丈夫」
「あ、俺絆創膏持ってる！ちょっと待ってね」
彼は革の鞄を地面に置いて、参考書やらノートやらを取り出している。絆創膏を探してくれているみたいだ。
「あった！」
彼が取り出したのは、ハートが描かれた随分とラブリーな絆創膏だった。
「この前誰かに貰って使わなかったやつなんだけど、これでも良い？」
「あ、うん。全然。わざわざありがとう」
「いいえ」
男の子は、私の手のひらにその可愛い絆創膏を貼ってくれた。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 1003人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
akikuma(プロフ) - 切ないですね…大好き"だった"、好き"だった"人、過去形なのがなんとも切なすぎます😭みんな幸せになれー！って心の中で叫んじゃいました！ (9月27日 7時) (
レス) @page45 id: 5677edd0e4 (このIDを非表示/違反報告)
Ne子(プロフ) - akikumaさん» はじめまして！わーいありがとうございます😭 (9月26日 23時) (レス) id: c4997b2b87 (このIDを非表示/違反報告)
akikuma(プロフ) - はじめまして！大好きなお話です！！また更新されて嬉しいです🥰続き楽しみにしてます！ (9月26日 17時) (レス) @page42 id: 5677edd0e4 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：Ne子 | 作成日時：2023年3月30日 0時
