先生と黒猫。上 ページ6
草木も寝静まる真夜中。
街を動いているのは貧民街の連中か、マフィアか、夜行性の猫くらいであった。
連日、この街はどこかおかしい。
都市部では先日の混乱からの復興を目指し、普段より人の横行が増えた。
比較的静かだったはずの私のナワバリは、喧騒に追いやられた猫やら迷い犬たちやらが押し寄せ、すっかり静かではなくなってしまった。
とにかく今は、静かなところを見つけたかった。
裏社会の人間が生きる場所は、静かだ。
みな息を潜め、波風立てずに過ごしている。
そうして私は、とあるBARに辿り着いた。
どことも知れない未知の場所。
知らない土地をふらふらとしていた私が吸い寄せられるように辿り着いた、ネオンの光るBARの看板。
しかし野良猫生活の長い私は知っている。
飲食店の人間は私たちのことが嫌いだ。
今まで幾度となく追い払われたことか。
私を快く店内に通してくれた数少ない店など、探偵社の下の喫茶店くらいのものだ。
だと分かってはいるのに、私はBARから漂うなんだか懐かしい気がする匂いにつられ、その扉へ続く階段をとことこと降りて行った。
中からは人がお喋りをする声が聞こえる。
決して騒がしい訳ではなく、落ち着いた大人の声。
「────！！」
そして、聞き覚えのある声がした。
気がした。
カランカラン。
BARの扉が開く。
「おや」
扉から、マスターと思しき初老の男性が顔を覗かせた。
彼は私を見て珍しそうに目を丸くし、そして店内を見回す。
その視線の先を追い、おや？と思う。
談笑していた声が聞こえたにも関わらず、店内には客の姿がない。ならば、このマスターは誰とお喋りをしていたのか。
「どうぞ、お入り」
彼は私を見てふわりと微笑んだ。
猫を招き入れる店など珍しいことこの上ない。
客の姿がないことに気を留めることもなく、私は店内に足を踏み入れる。
店内にはレトロなジャズが流れていた。
カウンターには、客が飲み残していったであろうグラスが残されている。
ぴょん、とカウンターの椅子に飛び乗る。
マスターはそんな私を見てニコリと微笑み、そして。
「お仲間ですよ」
奥のカウンターに寝そべっていた三毛猫に声を掛けた。
終わり
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音猫(プロフ) - 菜々さん» コメントありがとうございます(^^) わー！楽しみにしていただけて嬉しいです！ そのうち時間が作れたらまた更新しようと思ってます！（*＾-＾*） (2020年6月7日 10時) (
レス) id: 6e1a8c15ff (このIDを非表示/違反報告)
菜々 - 猫視点でのお話はとても面白いですね！是非続きを、読んでみたいです！夏目先生との再会が楽しみです...♪*ﾟ (2019年8月4日 3時) (レス) id: 3df446ad78 (このIDを非表示/違反報告)
音猫(プロフ) - ソルトさん» コメントありがとうございます！ 猫さんは私の分身みたいなものなので、感情移入して下さってとても嬉しいです。不思議な、素敵な感覚で読んでいただけているのでしたらとても書きがいがあります。楽しみにして下さって光栄です！ (2019年6月14日 17時) (レス) id: 6e1a8c15ff (このIDを非表示/違反報告)
ソルト(プロフ) - 猫の視点での作品は始めて読みましたがとても面白くどんどん猫さんに感情移入していきました。言葉では説明できないような感情を抱かされるような感覚です。更新、楽しみにしてます (2019年6月12日 12時) (レス) id: 61b043fd1c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：音猫 | 作成日時：2019年6月5日 11時
