捌拾陸 ページ38
数日後の晩
Aはいつもより忙しい日程に愚痴をこぼしつつ次の座敷へと急いでいた。
今日だけで五つも予定が入ってしまったのだ。
ようやく着いた宿に息を整えて入る。
『こんばんはぁ…胡蝶と申します。』
店主「これはこれは。ご来店ありがとうございます。こちらへどうぞ。」
『へえ。』
店主の案内されるまま、奥の少し薄暗い間まで来た。
『失礼致します』
「入れ。」
『っ！』
Aは中から聞こえた声に思わず居竦む。
これに彼女は聞き覚えがあった
震える手元を押さえつけ、ゆっくりと襖を開けると…
「待っていた。」
そこは意外に小さな間で、彼は1人だった。
酒を嗜みつつ怪しい笑みでこちらを見ている、目元が細い男。
新撰組三番隊組長、斎藤一…＿＿＿
『お久しぶりどす。一はん。』
斎藤「ふ…やはり美しさは衰えぬか。その澄み切った瞳も。」
『世辞など要りまへん。…うちになんの御用どすやろか。』
斎藤「バカ言え、今は芸妓として呼んでるんだ。御用も何もないだろう。」
『そうでしたね。…何にしましょうか。』
斎藤「貴様の、得意なものにしろ。」
『へえ。』
彼の舐めるような視線を感じつつ、琴を取り出し準備する。
そしておもむろに弾き始めた。
途端に彼の性には似合わない、うっとりとした溜息が漏れる。
流れるような旋律、美しい和音。
全てが斎藤ただ1人を魅了した。
最後の音が余韻を残して空に消えていく。
斎藤「お前は衰えることを知らんようだ。」
『おおきに。』
斎藤の嫌味のようにも聞こえる褒め言葉を久々に頂戴した。
斎藤「…ひとつ、抜刀斎に伝えておけ。そのうち行くと。」
『…あんさんやっぱり御用あったやない。』
斎藤「まあな。それと胡蝶。」
『へえ。……！？』
斎藤の呼びかけに振り向けばすぐそこに彼の顔があった。
顎をつかみ、自分と目を合わせるように上を向かせる。
斎藤「抜刀斎などやめて俺のところに来い。」
『…時尾ちゃんはどうするおつもりどすか。』
斎藤「男は強欲なんだよ。欲しいものが手に入ればまた次のものが欲しくなる。…それが今持っているものより上等なら尚更、な。」
『ご冗談を。あんなに愛妻家の一はんがそんな事本当には言わへん。』
斎藤「チッ…まあいい。次会う時まで考えておけ。」
斎藤は制服を羽織りながら部屋を出て行った。
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モブキャラ - 私『刀姫』読みました！！とっても面白くて、最高でした！「刀姫』もこのお話も更新楽しみにして待っています！色々あってお気に入り登録できませんが、私の中ではお気に入り登録認定されてますので！頑張って下さい (2020年9月10日 5時) (
レス) id: 8ce7db365e (このIDを非表示/違反報告)
あんじゅ - 最高 (2020年2月20日 21時) (レス) id: 0aa15127f1 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：柚姫 | 作成日時：2016年8月27日 22時
