質拾壱 ページ23
その日の夜もAは座敷に呼ばれていた。
大久保に呼ばれてからというもの幕末の頃以上に名が知れたので毎晩大忙しである。
Aは今日の仕事は終え、下駄を鳴らしながら家路を急いでいた。
今宵は空に月が出ていない。
何だか不気味だった。
『…なんか、嫌やなぁ。』
何時もより暗い夜道は、Aの不安を掻き立てる。
羽織に、何かから身を隠すように包まると琴を抱え直した。
するといきなり風が強く吹き…
「胡蝶。」
『っ…どちらさんですろうか。』
突然背後に現れた殺気立つ気配に身を硬くする。
「…鵜堂刃衛と言ったら分かるか。」
『刃衛はん？』
見知ったその名に後ろを振り返った。
刃衛「あの胡蝶に覚えていてもらって光栄だな。」
『お久しぶりどす。…で、何をしてはったん。あんさんから血の匂いがしはりますが…』
鼻に付く鉄の匂いにAは思わず顔を顰める。
刃衛「ふふ…うふふふふ…流石だな。俺は人を斬ってきたよ。やっぱり楽しいねぇ…」
『そんで、うちも斬りはりますか。』
刃衛の不気味な笑い声が辺りに響いた。
刃衛「いやまさか。胡蝶なんぞ斬ったらお偉いさんに俺が殺される。それに、好いた女を斬るなんて出来ないねぇ…」
『ご冗談を…して、うちに何の用どすやろか。そろそろ帰らなあかんのやけど。』
優柔不断な刃衛に痺れを切らしたAは、刃衛の瞳を軽く睨む。
刃衛「胡蝶。俺はまだお前が好きだ。抜刀斎ではなく、俺と来い。」
そんな彼女を軽くあしらい、刃衛はAの細く白い手首を握った。
『生憎うちはもう他の人の物ですのんで。ご勘弁おくれやす。』
刃衛「ふふ…なら明日の晩。俺は抜刀斎を殺る。そうしてお前を迎えに行くとしよう。」
『それじゃあうちは期待せんけど、待っとります。』
その手をあくまでも優しく振りはらい、刃衛に向かって一礼すると、神谷道場へ足を進めた。
「ふふふふ…うふふ…誰にもやらぬぞ…胡蝶…」
その不気味な声にAは思わず振り返ったが…
そこには既に誰もいなかった。
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モブキャラ - 私『刀姫』読みました！！とっても面白くて、最高でした！「刀姫』もこのお話も更新楽しみにして待っています！色々あってお気に入り登録できませんが、私の中ではお気に入り登録認定されてますので！頑張って下さい (2020年9月10日 5時) (
レス) id: 8ce7db365e (このIDを非表示/違反報告)
あんじゅ - 最高 (2020年2月20日 21時) (レス) id: 0aa15127f1 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：柚姫 | 作成日時：2016年8月27日 22時
