ねぇ…松本センセ…？【4】 (ページ48)

今日:16 hit、昨日:2 hit、合計:33,216 hit

Mood【M】ページ48

・

・

はっきり言って

この頃の俺の恋人は里美じゃなく

確実にAだっただろう。

Aは美術館に行くときは必ず

決まった時間に連絡を寄越した。

おうちにいますか？

可愛らしいウサギがハテナマークを浮かべているメールを受信する。

いますよ

と、なんの装飾も施さないメールを返すとまた返信が来る。

遊びに行ってもィィですか？

妙に感じる

カタカナ混じりの本文は

ジェネレーションギャップを感じる瞬間だった。

いいですよ

うちに居るのかと聞かれた時に

いるよ、来ていいよ

と言ってやれば

ワンリターンで済むやり取りだけど

そういう些細なやり取りでさえ

楽しんでしまう自分がいるのだった。

･

潤
『いらっしゃい』

『おじゃまします』

Aはいつも

美術館の隣にあるケーキ屋で

小さなケーキをふたつ買ってくる。

それをふたりで食べる時間は

何より幸せを感じるひと時だったかもしれない。

邪魔もなく。

棚もない。

紛れないふたりだけの世界が

そこにはあった。

･

潤
『あ！』

『ビックリしたぁ！』

潤
『俺ビール飲んじゃった』

酒の席に居たのに

一滴も飲めずにいたフラストレーションから

帰って早々、缶ビールを立て続けに２本空けたことを思い出した。

『……？』

Aがキョトンとするのも当然。

潤
『送っていけないわ』

『あぁ(笑)大丈夫
電車あるうちに帰りますから』

俺が送らなくたって

うちに帰る術はなんだってある。

潤
『夜遅くに危ないよ』

Aは

テレビの横の時計にチラリと目を遣って

仕方なさげな顔をした。

『じゃぁ…遅くならないうちに…』

潤
『泊まってく？』

『ぇ？』

酒のせいもあるかもしれない。

潤
『泊まっていきなよ』

朝まで一緒にいたい。

･

そんな気分だった。

･

･