覚えてない、思い出せない ページ5
「何のんびりしてんだよ中也、こんなとこで!」
太宰と中也が電子遊戯場での勝負を終えた少し後、《羊》の構成員三人が中也を見つけて彼に詰め寄った。
「知ってるだろ、晶や省吾がマフィアに攫われたの!」
中也は其れに対して「対処中だ」と云った後、眉を顰めてこう云った。
「手前ら、マキマは如何した? 彼奴は仲間が攫われたと知ったら絶対一人で対処しようとするだろうから、見張っておけって云っただろ」
「……マキマ?」
《羊》達は顔を見合わせて首を傾げる。そして引き攣った笑みを浮かべて中也を見た。
「大丈夫か、中也。うちの構成員に、『マキマ』なんて奴はいないだろ」
「──は?」
《羊》達は、マキマを覚えていない。
*
「何のつもりだ?」
中也は声を低くして尋ねるが、三人の反応は変わらない。ずっと「マキマなんて奴、知らない」の一点張りだ。
「知らない訳ねえだろ! 俺を拾ったのはマキマだ。其れに、俺が来る前まで『組織を守る要だったのはマキマだった』って手前ら自分でよく云ってただろうが! あの橋の下で皆で酒も飲んだだろ! 其れに、其れに……」
「何云ってるんだよ。目の前で倒れたお前を保護したのは僕達だし、中也が来る前は僕達皆で細々と組織を守ってた。本当に如何したんだよ、中也」
其れに何か言い返そうとして、中也はふと疑問に思った。そして首を傾げた。
──あ? 何でだ?
マキマと過ごした日々をよく思い出せる。マキマが中也に次いで、《羊》にどれ程貢献したのかも、出会ったあの日のことだって鮮明に思い出せる。
だが、幾ら頑張ってもマキマ自身の事は思い出せない。顔に声、髪の色に瞳の色。男だったか女だったかも思い出せない。
実の姉/兄の様に慕っていた存在の事が、思い出せない。
太宰は黙り込んだ中也を見て、何かを思案するかの様な顔をした。
中原中也は、マキマの容姿を思い出せない。
*
「まあまあ」
やけにニコニコとした太宰が、お互いに喋らなくなった《羊》達と中也に代わって話を再開させた。
最終的にマフィアに捕えられた《羊》の構成員は解放され、彼らが中也に不信感を覚えて話が終わった。
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はたりり(プロフ) - 面白くてここまで一気に読んじゃいました!!続きってありますか?楽しく待ってます! (12月5日 20時) (レス) @page12 id: 08a8bb82bf (このIDを非表示/違反報告)
息抜き(プロフ) - 猫さん» コメント有難う御座います! 長い間更新できないでいて本当に申し訳ないです。 (2023年4月10日 22時) (レス) id: aff75be4a1 (このIDを非表示/違反報告)
猫(プロフ) - 続き待ってました!!!更新ありがとうございます!!応援してます! (2023年3月20日 7時) (レス) @page12 id: 846f3d2d4a (このIDを非表示/違反報告)
琉亜 - て (2023年2月24日 3時) (レス) id: 5309fc8273 (このIDを非表示/違反報告)
琉亜 - あ (2023年2月24日 2時) (レス) @page11 id: 5309fc8273 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:息抜き | 作成日時:2022年11月13日 6時