何故か、思い込んでいる ページ3
「マァキマァァァアア!」
遠くの方から、中也はマキマを見つけて走り寄ってきた。
「中原君、戻ったんだね」
「戻ったんだね、じゃねえよ! 手前、また俺が襲撃してきた奴らを蹴散らしてる間に、他の襲撃者の処に単身で乗り込んだんだって?」
「うん」
その場に、中也の「うん、じゃねえよ!」と云う叫び声が響き渡った。
*
この一連の光景は、《羊》の構成員なら誰もが見たことのあるものだった。単身……おまけに丸腰で襲撃者の処へ赴いたマキマを、別の要件で不在だった中也が心配から怒鳴りつける。
「まあまあ、中也。落ち着けよ。今回もマキマは怪我しなかった訳だし」
何処からともなくやってきた白瀬が中也の肩に手を置いて彼を落ち着かせようとしたが、中也の機嫌は治らない。
「白瀬、お前もお前だ。その場に居たんなら、マキマが単身で乗り込むだなんて馬鹿な事しねぇ様に見張ってろ! 此奴は俺みたいに異能力者じゃねぇんだ。出来る事には限度がある。こんな事繰り返してたら、いずれ死ぬかもしれねぇ」
「あー、はいはい判ったって」
中也と白瀬のこの会話も、何度も行われた事だ。
*
マキマは何時もそうだった。単身で襲撃者の元へ赴き、無傷で帰ってくる。それだけじゃない。敵の持つ銃などの武器を持って帰ってくるのだ。
最初の頃は誰もが聞いた。「其の銃は一体、如何やって敵から手に入れたのか」と。しかしマキマは何時もの様に薄い笑みを浮かべながら云うのだ。
「話せば判ってくれる相手だったよ」
それが最初の頃だけなら良かった。しかし、それがずっと続くのだ。
流石の《羊》の構成員達も、何時かは気がつく筈だった。「話せば判るだなんて、そんな事は有り得ない。此処はそんな生温い処じゃない。何かが可笑しい」と。
しかし、構成員達は全員が全員そう云うものだと何故か思い込んでいる。そう……『何故か』、思い込んでいるのだ。
中也もそうだが、彼女を姉の様に慕うその心だけで、ただ一人何時もマキマを叱っているのだ。
*
勿論、「話せば判る」だなんて嘘だ。彼女は支配の悪魔の能力で、『武器を置いて立ち去る』事を敵に命令している。敵の記憶を改竄して、何をしに、どんな命令で《羊》の縄張りを荒らしに来たのかも忘れさせて。
《羊》の構成員達がマキマに対して疑問を抱かないのも、彼女がそう云うものだと『思い込ませている』からだ。
372人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
はたりり(プロフ) - 面白くてここまで一気に読んじゃいました!!続きってありますか?楽しく待ってます! (12月5日 20時) (レス) @page12 id: 08a8bb82bf (このIDを非表示/違反報告)
息抜き(プロフ) - 猫さん» コメント有難う御座います! 長い間更新できないでいて本当に申し訳ないです。 (2023年4月10日 22時) (レス) id: aff75be4a1 (このIDを非表示/違反報告)
猫(プロフ) - 続き待ってました!!!更新ありがとうございます!!応援してます! (2023年3月20日 7時) (レス) @page12 id: 846f3d2d4a (このIDを非表示/違反報告)
琉亜 - て (2023年2月24日 3時) (レス) id: 5309fc8273 (このIDを非表示/違反報告)
琉亜 - あ (2023年2月24日 2時) (レス) @page11 id: 5309fc8273 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:息抜き | 作成日時:2022年11月13日 6時