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Episode5 -5 ページ33
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私はあまり櫻井くんに好かれてはいなかったけど、話しかけて櫻井くんが私を無視したことは一度もない。
チッって面倒くさそうに舌打ちして、それでも返事をしてくれた。
その櫻井くんが、口を閉ざして視線を泳がせている。
「理由があるならそれを教えてくれればいいだけなの」
「……」
「櫻井くんは、私の昔のことを知ってるの……？」
ちょっとしたわけがあって、私の周りには私の昔を知る人が全然いない。
母が亡くなってからは、私は一人で生きてきた。
親戚はいるけれど、めったに会うことはないし、いとこの悟くんたちも住んでいる場所すら知らない。
だから、私の昔を知るには自分で思い出すしかないと思っていた。
だけど。
だけど…！
「……さくら」
「瀬那さん、お待たせしました」
櫻井くん。
そう言いかけた私をキッチンから出てきた相葉さんの声が遮った。
手には私が頼んだフードプレートを持っている。
「あ、待って」
その一瞬の間に、櫻井くんが背を向けてカウンターを出て行ってしまった。
大きな声を出した私と櫻井くんの去っていた方を見比べて、相葉さんが気まずそうに「邪魔しちゃいました…？」と申し訳そうな顔をした。
「あ…いえ、そんなことないです」
何でもないわけないけど「なんでもないです」と言って椅子に座りなおす。
ごまかすように口を付けたカクテルは甘さよりも酸っぱさが目立つような気がした。
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作者名：iCHiKA
| 作成日時：2020年1月24日 21時
