Episode3 夢か現か ページ14
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先日お店に行ってから、櫻井くんのことが頭から離れなくなっていた。
仕事をしていても、食事をしていても、お風呂に入っていても、お店を出るときに櫻井くんとした会話がよみがえる。
思い返してみれば確かに、私が持ち物に消臭スプレーをかけるのは、仕事が忙しくなってきた時だった。
前回は三日前、少し大きな仕事が動き出して会社全体がバタバタとし始めた日の夜。
その前は正確には覚えてないけど、松本くんに香りの話をされた気がするからたぶん後輩のミスをカバーするために動き回ってた頃。
確か松本くんとKIWIに飲みに行った記憶がある。
「香り……か」
私が忙しいと思って心配してくれた……？いや、そんなまさか。
でもでも、ブランデーエッグノッグは疲れた時のエネルギー回復に良いカクテルだってネットで調べたら出てきたし…。
「はああ……」
あの日から思考はこの堂々巡りだ。
せっかくの休日だったのに何も手につかなくて、ベッドに寝っ転がったまま抱き枕を抱きかかえる。
夜の自宅は静かで昼間より余計に櫻井くんのことを思い出した。
あの夜家に帰り着いて熱を測ってみたら八度弱くらいあったわけで。
それを自覚した途端に怠くなって櫻井くんに言われた通りにさっさと寝てしまって翌日には良くなっていたのだけど。
「どうして」
どうしてあんな風に心配してくれたんだろう。
いや、どうしてって櫻井くんが根はやさしいからでしょ。
だれにでもあのくらいするよ。
そう思っては。
確かに櫻井くんは気づかいやのようだけど、嫌いな人間相手にあそこまでする必要は果たしてあるだろうか。
そんなことを考える。
脳裏に浮かぶのは、初めて会った時の硬い表情と、いつものクールな表情と、私を睨みつける冷たい表情と、この間私を心配してくれたちょっと不機嫌そうな表情。
どれが本当の櫻井くんなのかわからなくて、抱きしめた抱き枕に頭を押し付ける。
櫻井くんの真意はいったいどこにあるのかな。
やっぱり、私のことは嫌いなのかな……。
堂々巡りを続けるうちに瞼が重くなって、私はそのまま眠りの中へと落ちていった。
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作者名：iCHiKA
| 作成日時：2020年1月24日 21時
