Episode5 -2 ページ30
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今日は夢を見たわけじゃないけれど、無性に彼らに会いたくなって。
鞄の中にキャンディと栞を忍ばせたまま開店時間ちょうどにKIWIの扉を開いた。
「いらしゃいませ…あ、瀬那さん、こんばんは。お早いですね」
「こんばんは、相葉さん。今日は休みなので」
今日は相葉さんしかいないのかな？
カウンターの中にはいつものようにバーテンの制服でビシッと決まった相葉さんがいた。
櫻井くんの姿はない。
ちょっとだけ残念だな。
「コート、お預かりします」
「あ、はい。ありがとうございます」
いつもの席に座っておススメのカクテルとフードを頼む。
相葉さんがさわやかな笑顔で準備を始めるのを横目に私は鞄から栞を取り出した。
例の夢を見た後は妙な焦燥感にかられる。
それがこのお店にくると落ち着くのだ。
だから無性に彼らに会いたくなるんだなと、この栞を見つけてから気が付いた。
だから、このお店で栞を見ていれば、何か思い出せるんじゃないかなって思って持ってきた。
「……」
「お待たせしました、ダージリンクーラーです」
「ありがとうございます…え」
顔を上げるとそこには相葉さんではなく櫻井くんがいた。
いつものクールな表情で私にグラスを差し出している。
「あの、相葉さんは…？」
「フード作ってますけど」
「あ、そうなの……」
てっきり櫻井くんはいないのかと思ってたからすごく驚いた。
心臓に悪い。
あわててカクテルに口を付けると、甘酸っぱくてさわやかな味がした。
「おいしい！これ何が入ってるの？」
「ティフィン・ティー・リキュールとシャンボールと……あー……紅茶と木苺とレモンとジンジャエールって言えばわかる？」
「うん、わかりやすい。ありがとう。紅茶も木苺も好きだから美味しいよ」
「……知ってる」
「え、知ってるの？」
「別に知りたくて知ってるわけじゃないから。これだけ店に来てりゃ嫌でも好みくらい覚える」
「あ…そうだよね」
常連の好みを覚えるのは確かに彼の仕事のうちなのかもしれない。
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作者名：iCHiKA
| 作成日時：2020年1月24日 21時
