Episode10 -6 ページ26
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拭っても拭っても涙が止まらない。
「うっ…うう……しょう…っ」
こんなにも好きで、口を開けば何もかもあふれ出しそうなのに。
どうしてあの日の私は翔からの別れを受け入れてしまったんだろう。
口も態度も悪かったけど、いつだって私には優しくて、すごく大事にしてくれて。
私にとって誰よりも大切な人だったはずなのに。
大好きな人だったはずなのに。
悔やんだって過去は戻らない。
わかっているけれど、自分勝手な私はそう思わずにはいられない。
そう思うくらい、私はまだ翔のことが好きだった。
ううん、それは少し違うかもしれない。
記憶を失くして、翔への想いを失くして、それでも私は櫻井くんに出会って、そして彼を好きになった。
きっとそれだけ。
ずっとそばにいてくれた翔も、KIWIで私を迎えてくれた櫻井くんも、私は好きで仕方ないんだ、きっと。
手の甲でごしごしと涙をぬぐう。
「やっと、会えたのに」
やっと自分の気持ちがわかったのに。
このままで終わるわけにはいかない。
あの日と同じように勝手にどこかに行った翔を捕まえて、聞かなきゃいけない。
どうしてって、今まで何度も思ったことを直接本人にぶつけなきゃいけない。
そのためには、
「泣いてる場合なんかじゃない、よね」
もう、何もせずに失うなんてことはしたくないから。
頬をパン！と叩いて気合を入れる。
それから握りしめていたワンピースに袖を通した。
翔が好きだといったワンピースからは、あのころよりどこか大人びた翔の香りがした。
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作者名：iCHiKA
| 作成日時：2020年2月6日 21時
