Episode9 -7 ページ15
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教えてって翔に言ったのは私だ。
翔は「わかったよ」と言っていた。
翔は私に嘘をついたりはしない。
一度した約束をたがえることも嫌うタイプだ。
一度翔が「わかった」と言ったからには、きちんと教えてくれるだろうと、そう思うのだけど。
だけど…。
いざとなると少し。
「怖い？」
「あ……」
まるで私の心を見透かしているかのように、相葉さんがうつむきかけた私の目を覗き込んだ。
どうこたえるか悩んで、結局素直に首を縦に振る。
「少しだけ」
「…どうして？」
「翔は……私の記憶から…ううん、私の中から、櫻井翔という存在を消したんですよね」
「そうだね」
「どうしてそんなことをしたのか、もちろん知りたいんです。知りたいんですけど………。それ以上に、怖いんです」
「なにが怖いのかな。自分でわかる？」
「私は……」
頭に浮かぶのは、KIWIで働いていた櫻井くんじゃない。
物心つく頃からいつもそばにいて、いつも私を励まして、助けてくれた、大切な男の子。
子供心に生まれて初めて結婚の約束をして、生まれて初めて好きになった、そんな男の子。
そんなことはあり得ないけど世界中すべてが私の敵になったとしても、この人だけは絶対に私の味方だって、そう信じられる幼馴染の、翔。
そんな翔に、私は……。
「…………いらないって、言われるのが怖い」
もしも翔が私の中から自分を消したのはもう翔にとって私が必要なくなったからだったらどうしようって、今はそれが怖い。
数年前まで、離れていてもいつも信頼出来て絶対的な味方だった翔が離れていくのが怖い。
櫻井翔を忘れていた時には考えられなかったそんな怖さが、体にまとわりつくようだった。
「……私の知らない翔が、いるのが怖い」
いつだって一緒で、相手よりも相手のことをわかってる。
そんな距離で生きてきたのに。
翔が何を考えていたのかがわからない。
それが…それも、怖い。
「……そっか」
相葉さんは特別何かを言うわけではなかった。
私の言葉を肯定も否定もせず、しばらくマグカップをゆらゆらと揺らしていた。
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作者名：iCHiKA
| 作成日時：2020年2月6日 21時
