Episode12 -5 ページ35
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私たちが暮らす街には海を望む堤防があった。
夜になるとガラの悪い若者がバイクで乗り付けたりしているその場所は、翔と一緒でなければあまり足を踏み入れることもない。
今日は少し風があって、海は白波を立てながらせわしなく堤防に打ち付けていた。
先に上に上った翔が私を引っ張り上げてくれて、屋上でいつもそうしていたように翔の隣に腰を下ろす。
長いスカートは短い時よりしわにならないように気を付けるのが大変だった。
だけど途中でそもそももう何回も着るわけじゃないことに気が付いて、適当に抱えて座り込んだ。
石の肌にこすれた感覚がしたけれど、それも気にはならなかった。
昔から翔は何か思うことがあるとここに来る。
私と喧嘩した後とか、私に彼氏ができたときとか、翔に彼女ができたときとか。
まぁ、理由はいろいろだ。
学生時代なんて、誰にだっていろいろある。
しばらく海を見つめていた翔は、地平線を見たまま「なぁ」と口を開いた。
「俺と付き合ってよ」
「………翔？」
「もう家族には戻らない」
翔はそこでようやくこちらを向く。
大きな翔の目には、喜びを抑えた顔をした女の子が映っていた。
「いいだろ」
それが当然みたいに翔が言うものだから、可笑しくて私は笑顔になる。
「ふふ、翔って私のこと大好きだよね」
「お前だって俺のこと大好きだろ」
「……うん、大好き」
「つーか、結婚の約束した時からお前は俺のものだから」
「えー、翔だって彼女いたことあるでしょ？」
「忘れた」
「もう」
文句のふりして吐き出すのは喜びの混ざった温かな息。
こんな時なのに、翔が一緒にいるだけで私は普通に笑えていた。
「ずっと、お前だけが好きだったよ」
「知ってる……私だって、翔だけが好きだった。翔だけが、大切」
私たちの想いなんてきっと幼いエゴでいっぱいなんだろう。
私たちはまだ子供で、けれど子供と呼ぶには大きすぎた。
その翔が私に別れを告げに来たのは、それから三年も経たない頃だった。
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作者名：iCHiKA
| 作成日時：2020年2月6日 21時
