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「は、はい……」
正直言うと、今すぐこの場から逃げ出したい。
でも、そういう私の行動で皆んなの雰囲気が悪くなってしまうかもしれないと考えると、なかなか行動に移せないのだ。
そんな私の思いを汲み取ると、その男性は安心させるように笑みを浮かべる。
「わかった、任せとき。……ちょっとごめんな」
一つ謝ると、私の背中に手を回し、密着させたところを見せつけるような位置に立った。
そして、軽い調子で声をかける。
「いやー、すまんなぁ。俺ら、ここで抜けさせてもらってもええ?」
「お、なになに折原。女の子お持ち帰りか〜?ww」
「いや、ちゃうねん。ま、俺が一方的に、って感じ?」
“折原”さん…
やっと知れた彼の名前。
なぜだろう、頭で思い浮かべるだけで、こんなにも胸がドキドキする。
雰囲気は崩さず、そして自分に皆んなの注目を集めるようにしていて、私を守ってくれているのだ。
密着した部分から感じる体温が、さっきとは真逆で、優しく、暖かく感じた。
「じゃ、ほなな〜」
「あいよ」
折原さんの活躍により、自然な流れで部屋から出ることができた。
廊下を少し進むと、パッと背中から手を離す。
「ごめんな、手、当ててもうて…」
「いえ、全然全然!私は、折原さんに触れられても、別に嫌ではなかったので」
「………っ」
そう言うと、折原さんは手の甲で表情を隠してしまう。
しかし、隠せていない耳が紅く色づいていた。
「……じゃあ、俺、期待してもええの…?」
「え、どういう__」
「_車。車で送ってくわ、乗ってって」
「い、いいんですか?……では、ありがたく…」
「はい、どうぞ」
「ありがとうございます」
折原さんに促され、助手席に腰掛ける。
「えーと、Aさんはお家ってどこらへん?」
「あっちにある家具屋の近くで…」
「…ああ、大体わかったわ。じゃ、行くで」
ゆっくりと車が発進する。
つい気になってしまい、隣をチラリと盗み見た。
「折原さん…運転中は眼鏡をかけてらっしゃるんですね」
「ふふ、そうやで。意外やった?」
「いえ、とってもお似合いです!」
そんな他愛もない会話が続いた後、沈黙が訪れる。
どうしよう、と考えていると、折原さんが重々しく口を開いた。
「…あんさ、こんなこと言っても迷惑やってわかってるんやけど……言うてもええ?」
「?はい」
よく意味がわからないまま、そう返事をする。
すると、折原さんは嬉しそうに笑って、話し始めた。
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作者名:フェレットみたらし団子 | 作成日時:2022年8月15日 19時