花火の音で聞こえない《snr》 ページ1
「せ、センラ、お待たせっ…!待った、よね…?」
着付けとセットに時間をかけ過ぎて、気付けば約束の時間を10分オーバー。
ちらりと見ただけでも、彼の首筋に汗が見えた。
そのため必死になって謝るが、彼は爽やかに返してくれる。
「ええよ、こんくらい。そこまで待ってへんから。…着物、着てきたんやね」
「そ、そうなの…!」
『似合ってる?』
なんて、思うだけで口に出せはしない。
自分でも似合っている自信がなかったし、さっきから目が合わないこと自体が答えのようなものだ。
「ほな、行こか」
「うん、行こう」
その後は、2人で沢山の屋台を見回った。
しかし、私はキラキラとした屋台よりも、彼の少し子供っぽい表情や、それとは打って変わったカッコいい仕草にばかり惹かれていた。
そろそろ花火が始まるため、私たちは買い込んだ焼きそばやりんご飴を持って土手に座る。
「ふふ、楽しかったー!」
「そうやね。てか、Aちゃんはりんご飴買い過ぎちゃう?ww」
「そ、そんなことないもん。それに、りんご飴は美味しいからいいの!」
買い過ぎを指摘されてしまったことに、羞恥で頬が熱くなった。
…引かれちゃったかな?どうしよう、今日告白しようと思ってたのに…
少し落ち込みながらも、りんご飴を食べようと口を開くと、センラに見られていることに気付く。
「…え、なに?どうしたの?」
私がそう聞くと、センラは優しい笑みを形作った。
「んー?別にぃー?」
「え、ちょっ」
口では『何でもない』と言いながらも、センラは手を伸ばして私の髪に触れる。
センラに触れられている感触が恥ずかしくて、頬が真っ赤に染まった。
「…………綺麗やよ」
「…!?え、えっと…?」
「…着物姿。言うてへんかったと思って……」
驚いて見上げた彼の頬は、私と同じくらい真っ赤に染まっていた。
もしかしたら、自分と同じ気持ちかもしれないという淡い期待が胸の中で大きく膨らむ。
気付いたら、彼に告白しようと口を開いていた。
「あのっ…!」
ドーーーーーン!!!!
「ずっと前から好きでしたっ…!」
一生分の勇気を振り絞って出した言葉は、花火の音と重なって搔き消える。
一世一代の告白が届かず、視界が涙で滲みそうになった。
「……あ、その………」
下を向きかけたそのとき、センラの手が頬に触れる。
反射的に顔を上げると、彼は今まで見たことがない程真剣な表情をしていた。
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作者名:フェレットみたらし団子 | 作成日時:2022年8月15日 19時