どの手を掴むかは自分次第。 (ページ25)

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in side ページ25

初めて黒い手に捕まった時とても怖かった。手を自分ができる限りに目一杯伸ばした。声を出して助けを求めようとした。でも誰かに言われた
“お前が大人しくこのままでいれば他のものはこのまま帰れるぞ”
そんなこと言われたら助けなんて求められない。徐々に増えていく黒い手。視界すらも遮られる。最後に見たのは無事に鳥居をくぐった大ちゃんの姿だった。
黒い手に捕まってそのまま眠ってしまって次起きた時、ナニカとナニカがいた。
片方は神だと名乗った。もう片方はお狐様だと名乗った。

ここから帰りたい、そう言ったが聞き入れられることはなかった。
代わりに俺の身に起ったのは記憶の欠落だった。一気になくなったのではなく些細なことから順に少しづつ消えていった。
自分がなんでここにいるのかを忘れ、メンバーのことを忘れ、自分の名前すら忘れた。
恐怖でたまらなくなった俺に神様は名前をくれた。俺を受け入れてくれた。何もなくなった俺を拒まずに。
そこから神様とお茶を飲みながらずっとおしゃべりしていたら急に神様の機嫌が悪くなった。誰かが来た。そういった。

よくわからないちっちゃい男性2人が来て、俺の方に向かってきて。何かが引っ掛かり思い出しかけた時、その2人は互いのことを忘れているようだった。どうしてか見ていられなくてそれでふと出てきた彼らの名らしきもの。
思い出した彼らは俺の方に近づいてきたから俺としてはここにいるつもりだった。ここには全部がないけどなんだってある。
だから言った。

“帰って”と。

でも彼らは帰らなかった。あげく神様がくれた名前じゃない名で俺を呼んだ。伊野尾慧だと。なぜか忘れていた自分の名前。急速に息を吹き返した思考。どうにかして3人で逃げて、また黒い手に捕まった時もうダメだと思った。大ちゃんと知念の手が届かなかった時もう誰も手をつかんでくれないと思っていたら薮に掴まれた。惚れるかと思った。
そこからはどうにかして神社を出て事情を説明して。平穏な日々がまた始まると思っていた。でも夢を見るんだ。自分がみんなとは別のものになって2度と一緒にいられなくなる。夢から覚めるたびに背中を確かめ。頭の上を確かめ。滝のように流れる汗を拭い乱れる息を整え思う。
こんな夢が現実になってほしくないと。