どの手を掴むかは自分次第。 (ページ20)

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ar side ページ20

「なぜ、なぜ覚えている。主らが覚えていられるわけがないだろうに。」
「なぜ？何でだろうね。どっかの赤色エースさん達が僕と大貴といのちゃんのことを呼んでいた気がするからじゃない？」
「うちのエース達なかなかに諦め悪いからなwそうだろ？いのちゃん。てか、伊野尾慧。」
「はっ、はは。そうかもな。何で俺こんなとこでウジウジ悩んでたんだろ。アホくさ。てことで帰りますかぁ。俺たちのことを待っててくれてる人たちのとこに。」

色味を失い虚だった彼の瞳に色素と光が戻る。やはり彼はこうでないと。
お狐様に掴まれていた体を半ば強引に引き剥がす。細身なけれのどこにそんな力があったのかは全くの不明であるがこの際それは関係ない。いのちゃんがお狐様の元から脱出できたのならそれでいいのだ。

「約束通り、いのちゃんの名前を呼べたことだし返してもらうから。」
「知念かっこいいー」
「何で知念茶化してんだよ」
「え、何となくじゃね？」

うちのテキトー王子はどこまでもテキトーらしい。
俺たちの帰路を塞ぐようにして立ちはだかるお狐様に知念が一言言って通り抜ける。

「行きはヨイヨイ。帰りは怖い。返すとは言ったが帰すとは言っておらぬぞ」
「マージで諦め悪いじゃんこのお狐様。」

帰路に着く俺たちの後ろからそんなことを言ってくるお狐様に対して本音がこぼれ落ちたが事実なので仕方ないと思いたい。明らかに向こうは怒っているようで昨日来た時に感じた威圧のようなのもが数倍強くなているようだ。何はどうあれここから逃げなければならないので全力で足を回す。例え息が切れ体力が底をつき走れなくなったとしても走り切る。あの鳥居を今度こそみんなで潜るために。
石畳を走り抜き、階段に辿り着く。今回は後ろから照らしてくれる人がいないため足元が暗く走れば確実に転ぶ。それでも行くしかない。覚悟を決め階段に足をかける。前回登った時、降った時。今回登った時の記憶を頼りに一段一段丁寧にかつ迅速に降っていく。鳥居が見えた。これを走り切ればもう安心。そう思った。

ぬるり。

背後に不快な感覚がした。