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「知念、ところでさ、あの人の名前覚えてる?何とかちゃんって呼んでた気がするんだけど。」
「そう、僕もそこまでは出てくるんだけどね。喉元につっかえてるっていうか。」

話しながら彼とお狐様の方に近づく。
俺たちを見上げる、彼は心細そうにふわっと笑ってこういった

「帰って」

何でそんなこと言うんだ。何で俺たちを拒絶したんだ。ねぇ、何で。何でよ。
ぐらりと体が揺れる。意識が暗闇に吸いこまれる感覚がした。強烈な眠気が俺を襲う。

「っ、寝てたまるかよ!!」

意識に忍び寄ってきた黒い影を引き剥がし気合いで眠気を吹き飛ばす。それを人はこう呼ぶだろう。

「お前力の強い猿かゴリラかよ」
「悪かったな!猿かゴリラで。」

俺らに帰れと言った張本人。暗い影は拭えなくても彼は思ったより元気そうだ。

「ねぇ、帰ろ?ここじゃなくてさ。みんな待ってるし、心配してたよ?」
「俺の名前すら覚えてねぇくせによく言えたもんだな。」
「そ、それは。」
「約束したろう。名を呼べねばならんと。名を呼べぬのなら返さぬと。諦めろ。お前たちでは思い出せんのだ。」

俺と彼の言い争いに首を突っ込んでくるお狐様。
相変わらずどこか薄い笑みを浮かべ余裕そうである。

「ふざけないで。僕はね、覚えてるよ。あなたのこと。ねぇ、そうでしょ。いのちゃん。」

知念の一言でここの空気がかわった。
それは明確に。確実に。今までは紫黒のモヤであったものが急速に彩度を失っていったのだ。しかし、そんなことはどうでもいい。彼は今何と言った?いのちゃん。そう言ったのか?そうだ。彼はいのちゃんだ。誰が何と言おうと俺らの大事なメンバーで失いたくない人なのだ。無論、他のメンバーも失いたくないが。
目を見開いたいのちゃんと笑みを消し色をなしてこちらを見てくる。お狐様が彼の体を強く掴んだ。まるで渡さないと威嚇しているようで、自分たちのものだと言いたげであった。

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作者名:悠璃 | 作成日時:2024年1月21日 12時

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