どの手を掴むかは自分次第。 (ページ17)

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ar side ページ17

彼の後ろに立ち俺らを見下すそのナニカ。
身長、200㎝はゆうに超えている。フサフサしている三本の大きく美しい黄金色のしっぽ。頭頂部に見られるプロが作った三角おにぎりを思わせるよく整った大きな耳。
言うなれば、俺たちの目の前に立つこの大きなナニカは

「お狐…様？」
「なんだ喋れるではないか。いかにも。我はここの主殿の使い、狐である。」

声がポロリと漏れ、喋れるようになっていたことが発覚する。狐だと名乗ったものはここの神様の使いのものらしい。それにしてもものすごい威圧感である。
俺とお狐様の瞳が初めて交差した。お狐様の瞳は唐紅の美しい赤であった。

「主ら、何用でここに来た。答えよ」
「あ、あの、僕たち、そこにいる人返して欲しくてきたんです。お願いします、返してください！」
「それはならん。この者は主殿のものである。渡すことはできん。」
「それはダメです！その人は、俺らの大切な人だから。だから、返してください！！てか返せ！！！」
「威勢がいいことだな。良いだろう。返してやる。ただし、この者の名を覚えていればの話だがな。」

お狐様がその口角を持ち上げニタリと笑う。
名前を呼ぶだけとは簡単な条件である。初めから大人しく返してくれればよかったのに。
スウっと空気を吸い込んで彼の名を発する

「名前？そんなの…..にきまてんだろ。」
「何と主は言ったかな。名を呼べておらぬぞ」

その言葉に驚愕した。名前を呼べていないだと？そんなはずはない。だって俺は確かに彼の名を…..彼の、名を？おかしい。彼の名前はどんな名前だ？わからない。彼の飄々としていてふとした時に冷静に回る頭の良さも、表に出さない努力家でメンバー想いな面も、本当は我慢強いところも。何もかも覚えているのに。彼の独特な声だって今再現することができるというのに彼の名前だけが抉り取られるように忘れてしまっている。どうしても思い出せない。
果たして彼の名は、どんな名前だ？愛称は..五文字くらいだった気がする。本名は…本名も五文字、いや四文字か？よくある田中とかじゃなくて珍しい苗字だった気がする。名前は…なんか賢そうな名前。
どれだけ考えてもその名は朧げに現れては消えていく。まさに泥沼。