どの手を掴むかは自分次第。 (ページ16)

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ar side ページ16

少し待つものの何も起こらない。そこにあるのは初めに見た賽銭箱と鈴、鈴紐。奥に見える多少古びた神社。知念と目を見合わせ特に何も変わっていないと確認して帰るために後ろを振り向いた。
いた。
背丈170㎝前後。男性。茶髪の髪。昨日と変わらぬその服装。

「やっぱりここにいたんだ…」

俺たちのメンバーである、彼がそこにしゃがむようにして座っていた。俯き見えぬ表情と普段のふわふわではなくぼさっとなった髪。それら全てを包み隠そうとし頭を覆う彼の綺麗な手。それを除けば何らかわらない彼がここにいる。

「ねぇ、探したよ？みんな心配してる。帰ろ？」

知念の呼びかけに答えたのか、ゆっくりと手がずれて持ち上がる彼の顔。よかった。特に怪我はしていないらしい。少しの距離で彼の表情をうまく見ることができなかったが様子が変であると直感的に思った。
どうしたのかと聞こうと思えば出せない声。責めても彼を抱きしめて安心させようと彼に近づく。一歩。また一歩。徐々にはっきりとする彼の表情。近づいて気づいた。彼は怯えている。カタカタと両肩を振るわせどこかを指差す。彼の瞳に宿らぬ光。虚な瞳と表情でこちらを見据えてくる。

「主ら、何の用事だ。」

ヒュッと息が詰まった。今、俺たちの背後には俺たちとは全く違う世界のナニカがいる。ドバドバ滝のように流れる汗と整わない息。あたりは誰も声を発していなのに自身の呼吸音と心臓の音で東京の都会にいるかのような喧騒に包まれていた。
後ろのアレに反応してはいけない。アレに逆らってはいけない。間違ってもアレを倒そうだなんて考えてはいけない。

「我を無視し加えて背を向けるか。とんだ余裕だな。どれ、主らの顔を見せてもらおうか。」

ゆっくりと着実に俺たちに近づいてくる音がする。無視をした？背を向けた？仕方ないだろう。ここでは声が出なかったし振り向いてはいけない気がしたのだから。
ずりずりと袴を引きずるような音だけでこのは空間を支配された。