星が見えない夜空 (ページ13)

今日:2 hit、昨日:0 hit、合計:20,495 hit

Ｎｏ.１２ページ13

・
・
・

肩に触れた米津さんの両手は大きくて、

気温のせいかその手は冷たかった。

でも米津さんの手が触れていた肩は何故か熱くなっていた。

自分の上半身に掛けられた米津さんのパーカーは、

とても大きくて、どこかいい香りがした。

「風邪引いても困るだろうし、そろそろ帰りましょうか」

「そうですね … 米津さんも風邪引いたらいけないですしこの辺で」

「あ、送って行きますよ、夜道を女性一人で帰らせるのは危ないですから」

「えっ？！い、いやでも …、あ、これ返さないといけないですしね … 今回もお言葉に甘えさせて貰います … 」

パーカーを貸して貰ったうえに更にまた家まで送って貰うなんて、なんて贅沢なんだろうか。

・
・
・

あの日と同じ坂道を、あの日と同じ様に並んで歩く。

あの日の帰り道と同じ様に笑って楽しく話ながら。

帰り道が長ければいいのになんて思ったのはきっと初めてだろう。

もっと話したい、これでもうこうして話せるのは最後かもしれない、そう考えると帰りたくないとも思った。

でもそんな事は言えるわけもなく、あっという間に自宅の前まで着いていて。

「今日もわざわざ送って戴いてありがとうございましたっ！パーカーまで貸して戴いて…、」

そう言って私は掛けられていたパーカーを取り米津さんの方へと返す。

「ふっ、いいんですよ」

「米津さんは本当優しいですね、あの時も今日も」

「ふっ、そうでもないですよ」

嗚呼、これでお別れか…。
そうかんがえては寂しさが帰り道の時よりも増す。

「 …じゃあ、おやすみなさい米津さん」

そう言って鍵を開け扉を引く。中へ入ろうとしたその時、

「あ、あのっ」

「は、はい？」

あの日と同じ様に米津さんに引き留められ振り向く。

「あー…えっと…、またAさんの地元からの景色とか聞かせてくれませんか？今度は一緒にお酒でも飲みながら。Aさんが良ければですが、」

「！？も、勿論です！私の地元の話で良ければいくらでも…！」

また勢いが…。でも抑えられなくて。

「それなら良かった、じゃあ…連絡先とか交換しませんか？てか、そうしないとまた3ヶ月後とかみたいになっちゃいますし」

「あっ、そ、そうですね…！えっとじゃあ…スマホ… 」

少し動揺しながらも心は幸せでいっぱいで。

連絡先を交換した後、米津さんの大きな背中を見送った。