気になるあの子 (ページ29)

今日:25 hit、昨日:1 hit、合計:68,308 hit

29 ページ29

「始まっちゃったよ…」

1人ベンチに座りながら見る華やかな夜空は余計にAの心を曇らせる。

だから、

ここに来る途中に見かけた自販機を探すことにした。

それが、いけなかった。

遠くからドンヒョクくんの声が聞こえた気がした。

いやいや、まさか…と思って声のする方を見ると

(…ドンヒョクくん…と)

ヒュッと息が止まる。

「待たせてるんだよ、本当、」

首に手を当てて話すドンヒョクの後ろ姿。

目の前には先ほどの女の人がいた。

「ねえ、失恋に効くのは新しい恋ってこと？」

「おい、その言い方はないだろ」

「本当のことじゃない。こうやってすぐに乗り換えて、あの子が喜ぶと思ってるの？」

…失恋？新しい恋？

訳もわからず頭の中が真っ白になる。

ドンッと空から音が鳴り、周りから歓声が上がった。

空には色とりどりの花火がキラキラとAの目に溜まった涙に反射する。

人々が幻想的な空に夢中になる中Aは歩き始める。

俯いて、後ろを見ないように。

足の指の間が擦れてヒリヒリ痛くて、

痛くて仕方ない。

でも心の痛みを紛らすには丁度良くて。

元来た道を歩いているとスマホが震えた。
Aの足は止まることなく進む。

会場の出口に着いて、スマホの画面をつける。

『遅くなった、ごめん！今から行くね』

『〇〇ちゃんどこ？』

10分前と5分前に一件ずつメッセージがきている。

震える指で文字を打つ。

『ごめん、体調悪くなったから帰るね』
『今日はありがとう』

送信ボタンを押す指がぼやけ、画面に涙がポタポタと溢れるけれどもう送ってしまった、後戻りはできない。

後ろから会場アナウンスが流れる。
花火大会は終わった。