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…何故だろう。
まだ意識がある。
私は学校の屋上から飛び降りたはずだ。
案外、逝ってしまえばあの世でも意識っていう概念はあるものなのか。
いや、違う。
だって…
…こんなにも、"彼の薔薇"の香りがするから。
だから、私は瞼を開けた。
「……う、そ…」
「…どうして……」
…ああ、やっぱり。
その光景を、見ている私の視覚。
震えている、私の両手。
音を成す、私の声帯。
むせ返るような薔薇の香りを感じる。
私、生きている。
辺り一面の、真っ赤な薔薇の花畑。
そこに倒れる私を膝枕するように、抱擁している彼の姿。
…大きな瞳が、悲しげに私を見つめている。
TY「…どうして、飛び降りなんかするの。だめでしょ…」
「っ……、なんで…」
TY「…」
「テヨンアっ……あたし…、」
…ああ、どうして。
彼が私を見つめている。
その、優しさと真心のこもった眼差しで。
暖かな手で、私の手を確かに、握っている。
そして、私の頬に触れ、困ったように笑うのだ。
それだけで、たったそれだけで、
私の心が堰を切ったように、涙が溢れてくる。
TY「…怖かったね。寂しかったね、A…」
「うっ…、……」
TY「ひとりにさせて…ごめんね…」
「…テヨ、ン…っ…！」
テヨンは私の背に手を当て、抱き起こすと、そのまま私のことを抱きしめた。
優しく、奥手な彼らしくないほど、
きつく強い力で、私のことを抱きしめた。
私も泣きじゃくりながら、テヨンの大きな背中に腕を回す。
そして子どものように泣いた。
…子どもの頃、とても泣けるような状況にいなかったのに。
私はわんわん泣いた。
テヨンが助けてくれたことに、ほっとしたのか。
ようやく子どものように泣けて、安心したのか。
テヨンが駆けつけてくれたことが、申し訳なかったのか。
彼はただ、私をきつく抱いていた。
何も言わず、それでも、自分の思いを表すように。
私はその、テヨンの剝き出しの感情に触れたことが、嬉しかった。
…ようやく彼の、本当の気持ちを感じた、気がした。
どこからどう生んだのかも分からない。
テヨンが持つ魔力なのだろうか。
一面の、赤い薔薇の花園で
私はテヨンをずっと、抱きしめていた。
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れいら(プロフ) - 閲覧頂きありがとうございます、本編では文字数オーバーなのでこちらから失礼します。公開が大変遅れてしまいましたが5章目が完成しました。次章で最終章になります。公開まで今しばらくお待ちください。 (2023年3月2日 11時) (
レス) id: 0149abc0ab (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：れいら
| 作成日時：2023年3月2日 11時
