・ ページ47
.
TY side
DY「うっ……ジェヒョナぁっ…」
TY「…よく、全うしたよ。あんなにも…もがいて、苦しんで」
俺は目を伏せる。
…あの力を、久々に使った。
いつぶりだったろうか。どこかの国で悪しき魂を鎮めたときの…数百年ぶりか。
それでも慣れない。
誰かの心臓を止めることには、やっぱり。
しとしとと雨が降り続くなかで、ドヨンはジェヒョンの亡骸を抱いていた。まるで子どものように泣きじゃくる、そんなこいつの姿を俺は初めて見た。
人間だれしも、大切なものを失ったときに怒涛の後悔の念が押し寄せ、本性が顔を覗かせるという。
…ドヨンにとって、ジェヒョンはそれほど大きな存在だったのだろう。
俺も心は晴れやかではなかった。
これは、ジェヒョンが本当に、心から望んだ死だったのだろうか。
結局は他人でしかない俺に、彼の心は計り知れない。
それでも、ジェヒョンのあの眼差しだけは、本当のことを語っていたと思う。
TY「…きっと、次の命は…」
DY「…」
TY「俺が持てる最大の…今の力で、ジェヒョンの魂に祝福をかけた。きっと…きっと救われる。幸せに生きられるような人生を歩めるように…」
もう二度と、こんな悲劇が起こらないように。
俺が他の吸血鬼と違う力を与えられたのは、呪いをかけるためではなく、祝福するためだったんじゃないかと、ジェヒョンの安らかな死に顔を見たときに感じたんだ。
…千年生きて、ようやく答えを見つけた気がする。
俺が生きる、そのことへの価値も。
俺は立ち上がる。
ジェヒョンを俺の部屋に運ぼう。
丁重に弔い、彼が生きた証を刻もう。
そんな言葉をドヨンにかけようとした、その時だった。
俺の全身に、激痛が走る。
TY「うっ…！！」
DY「ヒョン！？どうしたの！？」
TY「…大丈夫、すぐ治まる…」
駆け寄ってきたドヨンを手で制する。
俺は肩で息をしながら、なんとか姿勢をもとに戻した。
痛み自体はすぐに引いたが、体に残るのは不快感のある余韻。
…なんだか、とても、嫌な予感がする。
DY「あっ、ちょ…どこ行くの！？」
俺はなりふり構わず走り出した。
…行き先なんて、決まっている。
君の存在が、風になって、声になって、俺の身に響くから。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 1386人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
れいら(プロフ) - 閲覧頂きありがとうございます、本編では文字数オーバーなのでこちらから失礼します。公開が大変遅れてしまいましたが5章目が完成しました。次章で最終章になります。公開まで今しばらくお待ちください。 (2023年3月2日 11時) (
レス) id: 0149abc0ab (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：れいら
| 作成日時：2023年3月2日 11時
