・ ページ13
.
角を曲がり、真っ直ぐ進んで
…ほら、やっぱり。
淡いデニムジャケットと白いフーディーを着た後ろ姿。
しゃがみ込んだ先には蛇口があるのだろうか、水で何かを洗うような音と仕草が窺える。
TY「…無言でつけるなんて、怖いからやめてよ」
「…！」
彼は振り向かずに、口を開いた。
いつ声をかけようか その頃合いに困り果てていた私は、そのままびくんと飛び跳ねてしまいそうなほどに驚いた。
人並みの喧騒は遠くへ、
驚くほど静寂に包まれた私たちの空間。
彼は静かに振り向く。
鋭い刃物のような瞳は、あの日から何も変わっていなかった。
「…いつから、気付いてたの」
TY「仕事柄、背後に回られたらすぐ気付くよ。そうでもなきゃすぐ、命狙われる」
「…」
TY「…声、かけてくれれば、それでよかったのに」
近くに寄って見てみれば、テヨンは右手を念入りに水で洗っていることが分かった。
左手には黒のグローブを嵌めている。
そして、左足のそばには、拳銃。
TY「…あ、」
テヨンは私の視線に気付くと、焦ったようにジャケットの中へ拳銃を隠した。
その咄嗟の仕草で水がハイヒールに飛び散ると、テヨンの右手が月明かりに照らされる。
彼の骨張った手には、洗っても落としきれない誰かの血がはっきりと見えた。
テヨンは私の反応に小さく溜め息を吐いて、蛇口を止めると立ち上がり 私に向き直った。
その瞳はさながら、氷の色。
闇夜に包まれる彼の姿は、死神のようだった。
…そんなに悲しい顔をしないでよ。
胸の中に込み上げた思いは、
テヨンに寄り添いたかったのかもしれない。
その孤独に、触れたかったのかもしれない。
TY「…俺、こんなだから。ほら見てよ、手。血が取れないんだ」
「…」
TY「…俺には近付かない方がいいよ」
「……それが、ずっと連絡を返さなかった理由？」
TY「…へ？」
「…待ってたんだよ。…仕事の話じゃなくても、…オッパの話じゃなくても、なんでも良かったのに…」
こんなことを言うつもりは無かった。
…ううん、本当は言いたかった。
予想外の私の返答に驚くテヨンの姿、
そのまっさらな反応を見ると、私の中でまた何かが止まらなくなるの。
だって、こんなにきれいなんだもん。
…悲しい運命に狂わされた彼の素顔が、
私の胸を強く揺さぶる。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 757人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「NCT」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
れいら(プロフ) - さとみさん» 大変お待たせ致しました。次章をアップ致しましたので、ぜひお読み頂ければ幸いです！ (2021年10月14日 18時) (
レス) id: c38a85a6a7 (このIDを非表示/違反報告)
さとみ(プロフ) - 続き楽しみです！ (2021年10月6日 2時) (レス) @page50 id: 3be0ba2d24 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：れいら
| 作成日時：2021年9月21日 19時
