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殴られる。
そう思い咄嗟に顔を背けると、
私の頬に固く握られた拳が当たる代わりに
肌と肌がぶつかり合う乾いた音が路地に響いた。
そっと目を開ける。
…私の前に立っていた、見知らぬ男性。
広い肩と、華奢な背中。
ネオンに照らされる金髪は、時に紫にも青にも桃色にも見えた。
ほんの少し、鉄の香りがした。
「…なんだお前」
「…一般人に、しかも女に、手上げるな」
「だってそいつが俺の商品を、」
「通報されたいのかよ」
「……てめぇ、覚えてろ」
売人らしき青年は悪態を吐くと、私を睨みつけて荷物をまとめると、足早に去っていった。
私は呆気に取られ、そして安堵感から途切れるような溜め息をつく。
目の前に立って私を庇ってくれた男性は、
低く、少し掠れた声で
一切振り向くことなく、口を開いた。
「ここ、危ないよ。広い通りに出よう」
ぼそりとそう告げた彼は、いきなり私の手首を掴んで
「え、ちょっと！」
騒ぎを聞きつけてわらわらやって来た怪しい野次馬たちの間を縫って、突然走り出す。
ヒールのせいで不安定な足元。
舗装されていない路地の小石に躓きそうになる。
どこからともなく聞こえてくる獣のような叫び声、私たちを追いかける気の狂った男たち。
だけど名前も知らぬ彼は、行き先を知っているようだった。
ただ冷静に路地を幾度も曲がり、走っていく彼に
私は必死でついていこうと、その背中を見上げる。
白い月明かり、怪しい店のピンク色のネオン、
おどろおどろしいこの街の何もかもに照らされたその後ろ姿は
どこか眩しくて、頼もしくて
輝いているようにすら、見えて
…次第に、笑えてきたの。
なんだか気分が晴れていくようだった。
何か悪いものを、憑きまとっていた何かを振り落とすように、
彼と走りながら自由の風を感じてる。
いつの間にか私の手首を握っていた彼の手は、私の手を固く握っていて
おかしいくらいに感じる体温、
そのどこか懐かしい気がする温もり。
時に殴りかかってくる男たちから私を庇って、
彼は風を纏って駆けていく。
やがて道が開けて
不意に彼が振り向いた時
彫刻のように整ったその横顔は、闇色に照らされて
その黒曜石のような瞳が私を見つめたら
私の胸の中で、何かの始まりを告げた
呼び起こした
思い出させた
…そんな、気がした。
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らーみょん - ログインしないでも見れるってありますか？ (2021年9月20日 23時) (
レス) id: bc990f52e8 (このIDを非表示/違反報告)
れいら(プロフ) - WayV沼子さん» コメントありがとうございます！他の作品も読んで頂いてるんですね…!!かなり毛色の違う作品ですがどちらも応援してくださって大号泣です（ ; ; ）ありがとうございます!! ルーカスはかなり主軸の登場人物となるので、今後もご期待ください(^^)♡ (2021年9月20日 19時) (レス) id: c38a85a6a7 (このIDを非表示/違反報告)
WayV沼子 - 表現力、設定、どれも素敵な小説だと思っていたら、大好きな作者さんだったなんて…！感激です。これからも応援しています。大好きなルーカス出してくださりありがとうございます(涙) (2021年9月18日 1時) (レス) id: 2887d301bf (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：れいら
| 作成日時：2021年9月14日 23時
