Crossed Destiny (ページ9)

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その男性は、酷い怪我を負っているようだった。

暗がりにしゃがみ込んで、鼻を拭っている。
鼻血が止まらないようで、その手も怪我をしていて。

私と一瞬目が合ったあと、すぐに顔を逸らした。
だけどその表情が、妙に心に残った。

この淀んだ街に似つかわしくない幼い印象と、真っ直ぐな瞳。

見惚れるとも違う。もっと何か、本能的なもの。
私も知らない私の感情が、彼から目を離すことを許さない。

この沈黙の中で、彼は自分の体のことなんてどうでも良さそうに、雑に傷を拭い続けていた。

…何故、彼は傷だらけなのだろうか。喧嘩なのか、それとも誰かから逃げてきたのか。彼の肩は上下して息が上がっているようにも見えた。

遠くを見つめるように、顔を上げる。

思い詰めたような眼差しは、苦悩と孤独感に満ち溢れていた。

「あの…怪我、」

自分でも、抑えきれなかった。
気が付いたら、彼に声をかけていた。
自分でも自分の行動に驚く。素性の知れない彼に関わったところで、危険な目に遭うかもしれないのに。

彼は私の声に、ゆっくりと顔を上げた。
もう一度、目が合う。

…やっぱり、若いじゃない。下手したら私よりも年下かもしれない。
少しこけた頬、薄い唇。どこか意思が強そうで、それでいて陰を感じさせる丸い瞳。

「け、怪我。そのままじゃ…良くないと思います、」

『…』

「その、近くに病院とか…」

『…これくらい、なんてことない』

「でも。傷口から感染症とかなったら、よくないし」

『…』

「…ここで待っててください」

『あ、ちょっと…』

低く、掠れた声。
見つめ合っていれば、吸い込まれそうな瞳。

澄んでいた。

…綺麗な、目だった。

私は何をしているんだろうか、本当に。
それもこれも全てお酒と、この汚い街のせいだろう。
半泣きになりながらコンビニへ向かう。私はどうかしてしまったんだろう。

だって、背後から糸で引かれるような、そんな感覚だったんだ。抗えない、私の力ではどうにも出来ないようなもの。運命、なんてロマンチックな言葉で説明をつけられないような、血生臭い匂いがした。

彼の表情、あの眼差しが、私を呼んでいるような感覚。

じわりじわりと私の内面を埋め尽くしては、彼のその寂しげな眼差しが心を揺らす。

ほら、私、どうかしているだろう。
…ほんと、何やってるんだか。

そう思いながらも応急手当の道具を買い揃えて、あの路地裏まで戻った。

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