遠ざかっていく姿 ページ42
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『A、少しいい？』
「え？」
夜10時、練習室を出たすぐ後にマネージャーに呼び止められた。
私はタオルで汗を拭きながら彼についていく。
最近はもっぱら、カムバックに向けた準備を個人的に一生懸命している。ソロの活動ばかりだったこの1年、再び歌手としてのスイッチを入れて歩み出すにはいつもより多くの練習が必要だった。
通されたのはミーティングルーム。
マネージャーと向かい合って座ると、彼はタブレットに何かを表示させて私に見せてきた。
『実は、Aに新しいオファーが来てるんだ。アリー・リュウさん、知ってる？』
「ああ、今人気のデザイナーの方ね。マガジンでも見たしよく噂は聞くわ」
『そうそう、で、彼女が今度新しくブランドをローンチするらしいんだけど、そのモデルとコラボアイテムの監修をぜひNCTのジアにオファーしたいって、連絡があって』
「…！」
タブレットに映し出されるのは、新しいブランドロゴやアリーの作品たち。
私の胸はどきんと音を立てて打った。
…アパレルの監修、か。
しかも新しく立ち上げる、その瞬間から。
前からファッションの仕事には興味があった。何度もモデルとしての経験をさせてもらって、実際に新作のコレクションを見学するために世界中を飛び回っていた時期もあったし、そうなると洋服を作ることにも興味が湧いた。
彼女の服は所持していないけど、そのトレンド感と奇抜さが絶妙にマッチしたスタイルはセンスの塊だ。
直々に私を指名してくれたことがとても嬉しい。
話題作りだということは百も承知だけれど、それでも私はぜひ挑戦したかった。
すぐに首を縦に振る。
「やる。やらせてください」
『ふふっ、Aならすぐそう言うと思った』
「もちろん。…わあ、夢みたい…」
自分の作った服が世に出る。
それを、誰かが着てくれるかもしれない。
…なんだかとても、胸が躍る気分だ。
そうと決まれば顔合わせの日程を決めないと、と言ったマネージャーとスケジュールの調整をして、その日は帰路についた。
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作者名：れいら
| 作成日時：2022年6月22日 1時
