・ ページ19
.
TN side
朝が来る前には、ここを出なくちゃ。
…そんな、時間と人目に縛られた生活、ボクらには合わないよね。
ボクはそんな独り言を思い浮かべ、Aの汗ばんだ額を撫でながら、その寝顔を見下ろしながら、微笑んだ。
とにかく喉が乾くんだ。
ホテルの部屋は乾燥してる。し、体力も使う。
毎回ボクは沢山水を飲んだ。
…それでも冷えないこの頭は、どうかしてると思う。
Aを起こさないようにベッドを出て、床に落ちていたパンツを履く。
さっとシャワーを浴びようか、それともあとでAと一緒にお風呂に入ろうか、そのガラス張りの浴室を眺めながらぼーっと思った。
ふと、鏡に映る自分の姿と目が合う。
…ホント、はっきりしろよ。って。
本気で、冗談のつもりだったのに。
それでも心のどこかで、期待していた。
あのときの、Aの言葉。
そして、ボクが返した言葉。
自分のしていることに罪の意識がないと言えば、それは嘘だ。…そこまで外道には成り下がっていない。
だけど、だけど、
…周りにイイ顔ばかりして、円満なフリしてるの、もう飽き飽きしていた。
会社の中では結構知られている。
ボクと、今の恋人のこと。
みんな応援してくれている。し、あの子はとてもいい子だと思う。そうだ、いい子なんだ。
だから、別れを告げられない。
…理由も、きっかけも、伝えることが怖い。
あの子をきっと傷つけるから。
だけどもっと理解しているのは、
今この状況、こんな関係を、あの子も知らぬままに作り上げていることの方が、彼女を傷付けるということ。
ボクはAと初めて出会った瞬間から、何か不思議な縁を感じていた。
どこかで会ったような、何故か懐かしいような、ううん、でも、何も知らないような、まだまだ知りたいような、そんな不思議な感情で満たされた。
だけど、簡単に言えば惹かれていた。
結局はそれだけだ。
Aはボクが出会ったことの無いようなタイプの子だった。
大人っぽくて、冷たそうで、ツンとしてて。
カンペキに見えるのに、もう自立していそうなのに、だけどどこか寂しそうで、儚い。
自然と目で追ってしまう。
…ボクが手を差し伸べていないと、崩れそうに、見えたんだ。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 974人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：れいら
| 作成日時：2022年6月22日 1時
