橙ルート8 ページ8
この間としみつが遅刻したときは、遅ぇ!って笑い飛ばして終わりだったのに。
今回は、心なしか生き生きしてるりょうくん。
「二日酔いになるほどひとりで飲むって、なんかあった?」
「いや…度数高いの飲んだからかな」
「じゃあなにもなかったんだ?」
うん。別に。なにも?
そう言いたいのに、なぜか口が動かない。
答えられないままでいれば。
「実は朝まで誰かと遊んでたんじゃないの?」
虫さんまで!違うよ!
思いっきり首を横に振ったら、脳が揺さぶられて思わず眉間にしわが寄る。
「本当に?だって昨日、」
「…もうそこらへんでよくない?ちょっと時間押してるし、撮影しよ?」
虫さんの声をさえぎったのは。
「てつやがそんなこと言うなんて珍しすぎる」
「りょう、お前わしがリーダーってこと忘れとるな?」
てっちゃんが、えっへんって胸を張る。
「明日多分雪降るげ」
「降らんわ!」
「まさか、これから毎日風呂に入るとか?」
「……入らんわ!」
「きったねぇ!迷うな!入れ!」
としみつのボケにも勢いよくつっこんでる。
けど。
撮影しよう、さっきそう切り出したときのてっちゃんの声は。
いつもよりずっと低くて、温度がなかった。
その後、撮影部屋へ移動して定位置に座る。
もんもんと考えをめぐらせる。
昨日のデート現場。
あれを私に見られたくなくて、強引に家に泊まらせようとしたって可能性は?
見つかったら冷やかされるとでも思ったり?
でも、そういうの隠したがるタイプでもないよね…
「やぁどうも、東海オンエアのてつやと!」
「…Aと!」
我に返る。
だめだ、今は撮影に集中しないと。
どうやら今日は、てっちゃんと虫さん、としみつとりょうくんのペアで料理対決らしく。
「審査員はA!」
てっちゃんの声。
なんだか、とても久々に名前を呼ばれた気がした。
その後、二手に分かれて企画はスタート。
キッチンから、リビングから、4人の楽しそうな声が聞こえてくる。
反対に、私の気分はどんどん落ちるばかり。
結局、一回もてっちゃんのほうを向けなかった。
「どーしたの、そんな顔して」
「りょうくん…」
気付けば、りょうくんがドアにもたれかかって立っていて。
そのまま私の隣まで来て、すとんと腰を下ろす。
少しの沈黙。
「…料理しなくていいの?」
「今はとしみつの番だからいいんだよ。それより、そんな泣きそうな顔した女の子ほっとけん」
「泣きそう…?」
「うん。泣きそう」
細長い指でおでこを弾かれた。
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作者名:V | 作成日時:2018年10月29日 17時