【東海】Deep Down (ページ20)

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緑ルート６ページ20

まばゆいくらいの赤色を眺める。
あの会話からして、ごはんを食べる前に二人でこれを買いに行ったんだろう。

でも、どうしてそれがここに？
彼女さん私にマウントとろうとしてる？
なんて、ばかな考えを巡らせていると。

「おい、悪かったって…」

なかなかリビングに戻らない私を見かねて、としみつが洗面所を覗きにやってきた。
いや、タイミング。

「おま、それ…」

少し気まずそうな、ばつの悪そうな顔。

「なんか…言うことねぇの」
「えっと、勝手に触ってごめん？」
「じゃなくて、なんも思わんわけ？それ見て」
「んー、女装でも始めたの？」
「あ？なわけねぇげや」

怒気をはらんだ声色と、二度目の舌打ち。
気を遣ってごまかしてあげたのに。
だからって、問い詰める勇気もないけど。

「もういいわ…それ貸せ」

リップを手渡せば、すぐにくるりと踵を返して洗面所から出ていった。

慰めろよってことだったのかな。
あいにく、今の私にそんな余裕はない。
むしろ私が慰められたい。

なんて思ってもしょうがない。
今リビングに戻るのも気が引けて、まだ散らかっているシャツを数枚かき集める。

勝手にやっているとはいえ、今の私は彼女どころかお母さんだ。
張り合う前から負け？

苦笑い。
でも。
それも突然、凍る。

これ、なに？
一枚のシャツの片口についた、赤。
あまりにも見覚えのある、その赤。

…キスマーク、だ。
理解するまでに時間はかからなかった。
薄れかけた箇所が、あまりにも生々しくて。

初めて、ぽろ、と涙がこぼれた。
ずっと我慢してきたけど。
もう、限界。
完全に私の負けだ。

泣きながら洗剤で洗い落とす。
やだな、認めたくないよ。

今、ここに。
としみつのそばにいるのは私なのに。
としみつは私のものじゃない。
私をとしみつのものにさせてくれない。

お願いだから、私を見て…

リップの跡と一緒に、この気持ちも洗い流してしまいたい。
水音に隠れて、そっと泣いた。

何度も洗って、ようやく色が落ちた頃にはすっかり腕がくたびれていた。
人の家でなにやってんだって話だけど。
醜い嫉妬心は見えないふり。

散々泣いたからか、涙もようやくおさまって。
深く息を吸って、吐く。
リビングへと向かう。

ずっと洗面所にいたこと、不思議に思わなかったのかな。
それとも、単純に私に興味がないのか。
後者を考えて、また涙腺が緩む。

やけに静かなリビングを見回せば。
ソファーに横たわって、静かに寝息を立てるとしみつがいた。