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『あ』
緊迫した状況だったのに、ぱちっ!俺と目が合ったかと思うと今までのアイドルになり切っていた表情ではない、いつものAの顔で目を見開いて、びっくりした表情を見せて。
その表情に、ついぷっ…と吹き出してしまった。
Aからも、こっちの様子見えるんだ。
でも、アイドルが、そんなマヌケな表情ダメでしょ。
しかも、殺されちゃう寸前だったのに。
ついに殺されてしまったアイドル役のAが床に倒れ込んでいる。
なんだか、Aがアイドル役って…なんだか1周回って面白くなってきちゃったよ。
今日はAが殺されないように頑張ればいいってことだよね。
うん、頑張れそうだ。
色々試しながら、だけどあの手この手を使っても死んでしまうAを、最後10回目のタイムリープでなんとか助けられる方法を閃いて、ラスト5分残して、救出成功!脱出出来ましたー!!
わー!ほんとに良かった。ってか、楽しかった。いつも以上に肩に力入っちゃったよ。
ちらっと窓越しにAを見ると、また目が合って、嬉しそうにこっそり手を振ってくれた。
同じ回に参加した人たちも、『アイドル役の子がとにかく可愛かったね』なんてみんな言っていて、『そうでしょう』と誇らしい気持ちになっていたら、『俺、関係ないのに、Aさんが褒められてて嬉しいんですけど』なんて山本が言うから、同じ気持ちでいた山本に笑ってしまう。
脱出ゲームは、面白かったし、成功もできたし、何よりAは可愛かったし、頑張ってる姿も見られたし、今日は来てよかったな、なんて思っていると、ぶーぶーとスマホが震えているのに気がついた。
『…あ、Aだ。ちょっと電話出るね』
山本に一言声を掛けて。通話ボタンを押す。
『…A!お疲れ様!!』
『拳さん!!もー!!なんでいるんですかぁ!びっくりしましたよー!』
『あはは。ごめんね。仕事はもう終わったの?』
『あ、あの…あと片付けをして、30分で上がりなので…一緒に帰れませんか?忙しいですか?』
『もちろん大丈夫だよ!また終わったら連絡して!』
『了解です!では、また!』
山本とはここでお別れをして(後日ちゃんとお礼をしないとね)、近くのカフェでのんびり待っていると、走ってきたのか、少し髪の乱れたAが窓の外で手を振っていた。
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作者名:奈絆 | 作者ホームページ:
作成日時:2021年9月19日 22時