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『あのっ…ごめんなさいっ…無理、だから。拳さんが…彼氏が好きなの…』
『…分かった。なら、これだけちょうだい』
『へ?……んっ!!やっ、やだ!!!』

急に肩を掴まれて、顔が近ずいて来たかと思ったら、唇に大野くんの唇がっ!!

やだ、もしかして、今、キス、したの?
拳さんじゃない人と、キスしちゃったの?
ごしごしと唇を擦る。

『ありがとう。じゃあ、また二学期に…』

そう言って、駅の方に1人で向かう大野くんを見つめながら、呆然としてしまう。

嘘、でしょ?
A、拳さんじゃない人と…キス、しちゃった。
絶対絶対嫌だったのに…男の人に押さえつけられて、逃げることも出来なかった。
気持ち悪いよっ…。

つらくて、悲しくて…拳さんを裏切ってしまった事実を受け止めきれなくて、気持ちを緩めたらまた街中で泣いてしまいそうだったから、急いで電車にのって、自宅の最寄り駅まで向かった。

昨日まで拳さんの浮気を疑ってたのに、まさかAが浮気しちゃうなんて…。
今日の朝、浮気を疑ったことも怒ってたのに…Aが男の人とキス…しちゃったなんて知られたら…今度こそ許して貰えないよ。
やだやだ…拳さんとお別れ、したくないよぉ。
拳さんに知られたくないっ…でも、ずっと黙って、嘘ついて…一緒にいるなんて…そんなの、Aには出来ない。

最寄り駅について、人気のない公園まで走って…周りに人が居ないことが分かるともう我慢できなくて、ダムが決壊したみたいに涙が溢れて止まらなくなった。

『ふっ…うぇっ…ううぅ…』

泣いて泣いて、嗚咽が止まらないくらい泣いて…。
公園の水道で唇をゴシゴシ洗う。気持ち悪い。
こんな状態で、拳さんに会うことが申し訳なさすぎるから、お家に帰ることも出来ない。
今日話そうって、お利口に待っててって言われたのに…浮気しちゃうし、言うことも聞けない悪い子だし…もう駄目。
こんなの絶対許してもらえないよ…。

空が赤から黒に変わりつつある頃、ぶーぶーと携帯が鳴るのがわかった。

『…拳、さん』

画面を見なくても分かる。
拳さん、お家に帰ってきてAがいなかったから、電話してきてくれたんだよね。
こんな所で逃げてても仕方ないって分かってるけど…どうしたらいいか分からない。

拳さんからの連絡が落ち着いたら、とりあえずこっそり帰ろうと思ってたのに、拳さんからの着信が鳴り止まない。

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作者名:奈絆 | 作者ホームページ:   
作成日時:2021年9月19日 22時

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