はち ページ10
落ち着いたらしい次郎は割れた皿を片付けようとして早々に指を切りました。何やってんの。
「だから私がやるからいいって言ったのに」
「でも割ったの俺だ」
「指とか手切るの目に見えてたから…。はい、手当て終了。次郎はお弁当持ってきなさい、洗うから」
絆創膏してるから人差し指最強だから手伝うとか言われても無視。弁当取りに行かせた。箒で破片を集めて処分。一応掃除機もかけた。
洗い物を始めると次郎は背中にくっつきはじめた。腹に手をまわしてぎゅっと、くっつく。次郎は昔からそう。寂しかったり、嫌なことがあったり…ストレスを感じたりすると離れなくなる。殆どが寂しくて、だけど。私が転校をしてからそんなに言葉を交わさなくなったし、一緒にいる機会も少なくなった。次郎にはそれは辛いものだったのだろう。だが知ってるぞ、たまに私の布団に入ってきて夜中の数時間一緒に寝てるの。普通に言ってくれればいいのにね。
私達姉弟がこうなったのには理由がある。昔、父が荒れていた頃の時代。母が交通事故でいなくなった。父は飲んだくれになって暴力を振るう日々。酒癖は元々悪かったけど、前までは私達を気遣ってそんなに飲むことはなかった。だからこそ、恐怖を感じた。温厚な父の豹変。散らかる缶や瓶。充満するにおい。増える痣。いつしか私達は学校にもいけなくなった。私達双子は2人で支え合って何とか互いを保って来た。
だが、それが崩れる時が来た。父が次郎の顔を、思いっきり殴った時のこと。次郎は殴られる前は泣き叫んでいたのに、ピクリとも動かなくなり、うんともスンとも言わなくなった。私は最愛の弟もいなくなったと思って、半狂乱で落ちていた酒瓶で力の限り父を殴った。所詮子どもの力だ。父にダメージなんて殆ど与えられていなかった。怒った父は私を外に締め出した。何度も殴ってから。
でも私はこれをチャンスだと思った。出れなかった外。重い体を引きずって祖母の家へと赴いた。祖母に助けを求めた。祖母は強い人だった。自ら家に乗り込み、次郎を救出。その上説教かましてきたのだ。父は目が覚めたらしくまた真面目に働き始めた。
次郎は私が締め出されたあとに意識を取り戻したものの、父にもう会えない事を告げられ、ショックを受け、崩壊していたと聞いた。誰もいないところにずっと話しかけていたらしい。私の名前を呼びながら。
それから再会したものの、トラウマが残ったらしく、私と離れることを強く嫌うのだ。
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作者名：佐藤なずな | 作成日時：2020年3月19日 3時
