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(十六) 火花と母 ページ17

彼に手をひかれながら彼女は走りました。こんなに動き回ったのは初めてでした。彼女は嬉しくてたまらず、笑顔を綻ばせながら足をひたすら回していました。しかしその動きは、彼女の上品な顔つきや雰囲気にそぐわず、それは彼が振り返った時、思わず吹き出してしまうほどでした。

「あっはっは、本当にかわいいねえ。君は」

 うっとりと彼女を見つめながらつぶやきます。彼女は少し恥じらいで、乱れた着物の襟などを正しました。

「笑わないで。ねえ。なんにもおかしくないわ」

 彼女の抗議も虚しく、むしろ彼女が騒ぐほどに彼は笑い声を膨らませます。そうしていると、どうやら彼女もおかしくなったのか、一緒になって笑いだしました。

「日が暮れちゃう。行こう」

 満面の笑みで彼はまた手を差し出しました。先ほどまでの賑やかさとは打って変わって、二人は静かに廃墟を後にします。柵を越え、公園に出ると、子どもたちの笑い声が間近に響くのでした。

「かわいいわねえ。子どもってのは。私好きだわ」

「同感だね。人間のうち、かわいいのは子どもだけだ。ほら、見て。俺も子どもになれるんだよ」

 そう言いながら、彼の背丈はするすると縮まり、顔も幼く、声も高くなり、本当に小さな少年になってしまいました。彼女は繋いでいた彼の手が小さくなっていく感覚に驚きながら、その愛らしさに思わず微笑みました。

「どう? かわいい?」

 くるくると回りながら彼は駆け出します。

「ええ。とっても。まるで私がお母さんみたいだわねえ」

「お母さん、か」

 水色の髪をきらめかせながら、少年は遊具のそばで走り回る子どもたちをじっと見つめました。

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うずのしゅげ(プロフ) - 凪疾さん» めちゃめちゃ嬉しいです…!! 読み進めたくなるなんてありがたいお言葉をいただいているのになかなか更新できずじまいで申し訳ないです。近々更新頑張りたいと思います! 絶対…!完結させます…!! (9月19日 10時) (レス) id: c82952eeb4 (このIDを非表示/違反報告)
凪疾 - とても面白くて、私の好みで、読み進めたくなるような作品だなと思いました。更新楽しみにしてます! (9月17日 19時) (レス) id: ad3483f622 (このIDを非表示/違反報告)
うずのしゅげ(プロフ) - とよさん» 返信遅れてしまって申しわけございません!!! 遅くなりましたが改めて、本当にありがとうございます!! 受験期は、とよ様のお言葉が心の支えでした!! このお話は、少しずつでも完結させるつもりなのでこれからもよろしくお願いいたします!!! (5月19日 22時) (レス) id: c82952eeb4 (このIDを非表示/違反報告)
とよ(プロフ) - コメント失礼します。更新お疲れ様です!いつも楽しく読ませていただいてます!受験頑張ってください!!!! (2023年2月12日 14時) (レス) @page13 id: d1624c287f (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:うずのしゅげ | 作成日時:2022年12月19日 22時

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