(十二) 開花とぬくもり ページ13
あそして彼女は、大きく口を広げてサンドイッチをほおばりました。ふわりとレタスが鳴り、ふわりと味わいが溶け出しました。彼女が食べているのを、彼はじっと眺めていました。
「きみは、おいしそうに食べるんだね」
「あなたは、食べないの」
「食べるよ」
彼はそう答えて、箱からおにぎりをもちあげて口にやりました。
「おいしい」
彼がきれいな顔で笑い、彼女と目を合わせました。その構図は、美しいもので、やさしく発光するお日様に包まれたような二人は互いの顔を近づけました。
「ねえ」
彼女がささやいて、ふっと甘い息を吸いながら、
「真人さん」
はじめて、彼の名を呼びました。
そうして目を伏せ沈んでくる彼女でしたが、彼は、そのとき突然、己の身を引いたのです。
「だめ」
ゆっくり目を開く彼女を待たずに、彼は言いました。
「触れちゃだめだ。わからないだろう。俺たちが触れ合ったとき、なにが起こるか、わからないだろう」
だって、ただでさえきみは、春が過ぎれば消えてしまう体なのだからーーーそう、彼は続けて口籠もりました。彼女が口の端をやさしく歪めました。
「じゃあ、試してみましょうよ」
あまりに突拍子のない提案に、彼はただ目を見開くばかりなのでした。
「だから、もし触れて、危険があるのはきみのほうなんだ。やめておいたほうがいいよ」
「じゃあ、一生私は、独りのまま」
「いや、現に俺と、会って、話しているだろう。きみは独りなんかじゃないよ」
「ひとりよ」
その言葉を堺に、彼は、なにも言い返せなくなりました。彼女の放った四文字の響きの、美しさに感動していました。一方の彼女は、濃ゆい逆光のせいで、顔が見えませんでした。
彼には彼女を気遣う余裕もなく、二人の間に沈黙がゆっくりとつもりました。
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うずのしゅげ(プロフ) - 凪疾さん» めちゃめちゃ嬉しいです…!! 読み進めたくなるなんてありがたいお言葉をいただいているのになかなか更新できずじまいで申し訳ないです。近々更新頑張りたいと思います! 絶対…!完結させます…!! (9月19日 10時) (レス) id: c82952eeb4 (このIDを非表示/違反報告)
凪疾 - とても面白くて、私の好みで、読み進めたくなるような作品だなと思いました。更新楽しみにしてます! (9月17日 19時) (レス) id: ad3483f622 (このIDを非表示/違反報告)
うずのしゅげ(プロフ) - とよさん» 返信遅れてしまって申しわけございません!!! 遅くなりましたが改めて、本当にありがとうございます!! 受験期は、とよ様のお言葉が心の支えでした!! このお話は、少しずつでも完結させるつもりなのでこれからもよろしくお願いいたします!!! (5月19日 22時) (レス) id: c82952eeb4 (このIDを非表示/違反報告)
とよ(プロフ) - コメント失礼します。更新お疲れ様です!いつも楽しく読ませていただいてます!受験頑張ってください!!!! (2023年2月12日 14時) (レス) @page13 id: d1624c287f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:うずのしゅげ | 作成日時:2022年12月19日 22時