５６バーボンとベルモット ページ16
冷たい。
最初の違和感はそれだった。
「こ…で…いも……たはずです」
「えぇ、よく………わ」
ぼんやりと聴覚が感覚を取り戻す。
どうやら近くに誰かいるようだ。
「この子ぐっすり眠ってるようだけど気絶でもさせたの？」
「えぇ、その方が手っ取り早かったので」
「あら？私はてっきりこの子がバーボンの女と思ってたんだけど、随分手荒いのね」
目をつむっていてもはっきりと分かる2つの声音。
1人はバーボン。
そしてもう1人は
「僕の女ですか？冗談はやめてくださいよベルモット」
組織幹部の中でも有名な彼女だ。
「そうね。冗談が過ぎたわ。重要なのは彼女の死が赤井秀一にどう影響するか。そこよ」
「ジンがそういったんですか？」
「あの方の直々のご命令らしいけど…私としても大賛成。もう1発あるはずの銀の弾丸が彼女の警護に当てられてちゃ困るもの」
彼女の口ぶりから察するに、秀くんの生存は組織に明確に知られている。
そして、私の生存も確認されてしまった。
こりゃ秀くんが狙われててもおかしくない展開。
どうりで工藤邸に帰れないわけだ。
「これで貴方の大事な彼女のことは見逃してあげるけど少し惜しいわ。せっかく貴方の弱みを掴めたというのに」
大事な彼女……か…。
やっぱりいるんじゃん。
そりゃこんなイケメンなら女の1人くらい囲ってそうだけど。
そんな考えをよそにコツコツとヒールを鳴らして遠ざかる足音に
「どこか行くんですか？」
「えぇ、ジンに呼ばれてるから」
呼びかける彼の声を聞いて足音が聞こえなくなるのを待つ。
人ひとりの気配が消えたところで
「そろそろ起きてくれませんかね。僕が貴方を襲ってしまう前に…」
目を瞑ったままでもわかる程度に視界の明度が落ちる。
その途端、頬に擽ったい感触がしてまさかと思って目を開くと
「やっと起きてくれましたか」
彼の顔が間近にあるじゃないですか。
『…早く離れてくれませんかね』
こちとら離れたくとも手足を縛られてるから動けないんだよ。
「嫌だ」
しかし、跳ね返された言葉に絶句する。
嫌ってなんだよ、おい。
どうみてもこの状況でこの距離はおかしいよ。
ここで誰か入ってきてみなよ。
君が怪しまれるんだよ。
そんな脳内整理をつけていると
「まずは謝らさせてくれ…すまなかった…」
彼のか細い声が聞こえた。
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作者名：星香 | 作成日時：2019年6月3日 15時
