55余儀なくされる変装 ページ15
『そんな…嘘よ』
「…あ、マスクあったよ!Aさん」
こうして変装マスクは無事見つかった。
しかし、私の気持ちは追いつかない。
「Aさん早くこっち来て」
一刻を争う事態だというのに、気分は重い。
それでも私は手を引かれるある部屋に通される。
「由紀子おば…お姉さんから使っていいよって言われたから好きに使ってね」
化粧台の前に座らせそそくさと部屋を出て行った。
未だにまだ信じられない私の心の内を見て見ぬふりをする探偵は、一体何を考えている?
分からない。
降谷さんが私を危険に晒す理由すらも分からない。
あの夜、抱きしめて優しい言葉をかけてくれた彼が夢だったのか嘘だったのか。
もうそんなことでしか私の頭はまわらない。
世界中の秩序がかかってると言うのに、これではダメだ。
喝をいれようと両頬をバチンと叩く。
どうせ私の素顔はマスクの下に隠れる。
少々腫れても問題は無い。
手慣れた手つきで変装マスクを身につけ、なぜか用意されてる赤井Aが愛用していた香水を身に纏う。
フルーティー系の香りが嗅覚で感じ取ると、頭の中がクラクラする。
騙しも殺しもなんでもやってきた自分を思い起こしたからだ。
こんな部屋にいては気を病むだけだ。
さっさと出て廊下で待ってるはずのコナンくんと話そう。
ガチャっと普通の家より少し重みのあるドアを引くと
「…その姿は久しぶりですね。赤井…Aさん」
待ち受けていたのは降谷さん…いや、バーボンというべきか?
私の部屋に侵入していたあの冷たい瞳で私を見つめている。
『あんただったのね。私をここまで仕向けたのは』
「えぇ、そうですが…ここで話してるのはもったいない。さっさと車に乗って貰いましょうか」
銃口を向けられた私の瞳にも温度はなかっただろう。
しかし、ふと気づく。
彼の上着のフードに隠れてキラリと反射的に輝いた小さな器械の存在を。
そして、悟る。
彼の態度はこの盗聴器のせいではないかと。
だったら少し乗っかってみようではないか。
『銃口を向け車に乗れとは随分手厚い歓迎だこと』
両手を上げて彼の方へ少し歩み寄る。
「ほぉ、大人しく言うことを聞いてくれるとは…いい子ですね」
そう言うと彼は急所を的確につき、グラッとる感覚に耐えきれず私は気を失った。
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作者名:星香 | 作成日時:2019年6月3日 15時