３９私の持ち物 ページ39
『えぇー！ちょっと何してくれちゃってるの？』
慌てて変な音のした部分を確認すると、さっきの音からは考えられない程の穴が空いている。
「何ってクローゼットの強度を確かめていたんですよ」
『終わった…。せっかく秀くんにクローゼット買ってもらったのに』
「やっぱり赤井の趣味ですか」
『やっぱりって…分かっててやりましたよね？」
最悪だ。
結構使い勝手が良くて気に入ってたのに。
「新しいクローゼットは買ってあるので問題ありませんよ」
そう言うと、何やら真新しい白いクローゼットが運ばれてくる。
しばらく唖然としていた。
なんで赤いクローゼット持ってるって知ってたんだよ…。
用意良すぎるでしょ…。
しばらく考えると、盗聴器の時にでも見たのだろうと合点がいった。
ただ運ばれてくる荷物を見ていても仕方ない。
こうしている暇があるなら、管理人にカードキーの返却にでも行こう。
そう思ってポケットから今朝、返されたばかりのキーケースを取り出す。
「なんですかそれは」
ところが隣の彼が私の手元を睨みつけてきた。
何をそんなに睨む必要があるんだと自分の手元に目線を落とせば、赤いキーケース。
『なにって赤い…キーケースですよ』
「貴方のバックに発信機を仕掛けた時はそんなものなかったはずなんですが』
『あぁ、知り合いの家に忘れてたんですよ』
「なるほど。それなら僕も知らないわけですね」
そうにこやかな笑顔で言われる。
その瞬間、私は確信した。
この人、私の持ち物の赤いもの全部を取っ替えるつもりだと。
その証拠に、彼は自分のスマホを取り出して電話越しに
「あぁ、そこの物ならなんでもいい。ただし赤色以外で頼む」
買い物を誰かに頼んでいた。
電話が終わってからだと撤退的な持ち物検査が入りそうな展開に、嫌気がさす。
そう危惧した私は足音ひとつ立てずに玄関まで移動した。
玄関のドアは荷物の出し入れの為に開けっ放しだ。
するとタイミングがいいのか悪いのか、ひょこっと顔を出した管理人さんがカードキーを受け取りに来てくれたようだ。
よって私の脱出劇はそこで幕を閉じた。
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作者名：星香 | 作成日時：2019年5月8日 17時
