CBくんたち！【短編集】

【J】略奪願望(後編) ページ2

***


飲み会中盤、用を足しにトイレに来た。
座っている時には感じなかった倦怠感が、今になって一気に全身を襲った。
大分酔いが回って来たことに気付く。
それを振り払うように一度伸びをしてからトイレを出ようとしたところで、千鳥足のAに遭遇。

「あれ…何しに来たんだっけ」
「ここトイレ前だけど」
「あっ、トイレ！そうだ〜」

そうふらふらと向かうのは、俺の方…つまり男子トイレ。

「っおい、こっち男子トイレだって！」

見事な酔いっぷりに笑いつつ、こちらに向かってくるAを押し戻そうとした。
が、ふらりとバランスを崩したせいで派手に倒れそうになったA。
俺は反射的に手を掴んで、引っ張った。
お陰で大事故。Aは俺の腕の中にいる。
ジョージに見られたら、多分俺は殺される。

いや…これは事故だろ、あれを見過ごしてたら大怪我してただろうし。
それを俺が阻止したんだから事故だ、俺は悪くない。

そう自分に何度も言い聞かせていると、変わらず超至近距離に居るAが「あのねジローさん」と、いつもよりもずっと甘い声で言う。

『いい歳して何考えてんだ』という感情と『何の感情も抱かない男はきっといないだろうから仕方がない』という感情の二つの間を彷徨う。
そんな俺の思いも知らずに、Aが口を開く。

「私、ジローさんのことが好き」
「…は？」

思わず、間抜けな声が漏れた。
果たしてこれは聞いても良かったのか。
今さっきの出来事で、すっかり酔いも醒めてすっきりとしている筈なのに、頭がくらくらとしているように感じたのは、全部この女のせいだ。

その言葉の後、Aは俺に体重を預けたまま、力尽きた。

「はああああぁぁぁ〜…」

我ながら大袈裟過ぎる溜め息を吐きながら、心の何処かで離れてしまうのが惜しいと思いつつも、トイレ前の小さな通路にAを座らせた。
そして携帯を取り出し、押し慣れた番号を押す。

「ジョージ、俺だけど。お前の女、トイレ前で死んでるぞ」
『マジか！あいつ、そんな飲んでたっけ？』

酒のせいで普段よりもでかいジョージの声に思わず顔を顰めた。

「まあトイレ前に居るから。…あとさ」
『ん？』

…何を口走ろうとしてるんだ俺は。
ふと口をついて出そうになった言葉を飲み込む。

「いや、何でもない。とりあえず早く来て」

電話を切った後床に座り込んで眠るAを見つめながら、自分にしか聞こえない程の声で、飲み込んだ言葉を吐き出す。



「お前の女、攫ってもいい？」

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